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「ん....」
ユウが目を覚ますと、目の前には未だに慣れない景色が広がる
今までの部屋とは違う空間を当たり前のことのように受け入れるにはまだ時間がかかりそうだ
ゆっくり身体を起こすとユウに目はすぐにキッチンにいる椎名の姿を捉えた
「ぁ....あー...」
こっちを向いてもらおうと声を上げるユウに椎名が気づいて笑顔で振り返った
「あ?起きた?ユウくん、おはよう」
「ぁぅ...?」
「昨日は遅くまで起きていたからね、もうお昼だよ」
窓から差し込んでくる光に目を細めながら椎名はユウをベットから抱き下ろした
「起きたら”おはよう”って言うんだよ」
「...?」
「朝はおはようって挨拶から始まるんだ、ちょっとずつ言えるようになるといいね」
彼との生活の中では朝だろうが昼だろうが関係なかっただろう
寝たいときに寝て起きたいときに起きる
彼がそばにいればそれが夜でも眠ることはなかったに違いない
基本的な日常サイクルもあの空間の中には存在していなかったのだから
「起きたらまずは....そうだ、お着替えしようか」
そう言って家を出て行くときに預かった紙袋を覗いてみる
その中には新しい服や下着、必要なものがこれでもかというくらい詰め込まれていた
「どれにしようか、ミツルくんがいっぱいそろえてくれているからね」
椎名が床に中身を広げている時もユウは傍でちょこんと座るとお利口に待っている
「えーっと...あれ?」
椎名が紙袋の奥に何かが入っているのに気づいて掴みあげる
それをみた瞬間、ユウは嬉しそうな声を上げた
「あぁっ!!」
椎名の手に握られていたのはユウのお気に入りのペンギンのぬいぐるみだった
「ミツルくんが入れてくれてたんだ、良かったね」
ユウに渡すと嬉しそうに頬ずりして、ここに来てから一番の笑顔を見せる
「やっぱりミツルくんはすごいなぁ」
椎名は嬉しそうにするユウの頭を一撫でしてからつぶやいた
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