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第16話

「あ、、もう、危ないから動かないでってば」 ユウの前髪を梳くように掴んでハサミを当てる 溢れる髪の毛が顔をくすぐり、むず痒いように動いてしまうのを言い聞かせて慎重に刃を重ねていく シャキン、、と金属の重なり合う音に合わせてパラパラとその白い肌を流れるように髪が滑り落ちていいく 素人がバランスよく切るのは難しい 切っては片方が短くなりそれにあわせて切ればまた片方が短くなる 「まー、、、いっか、こんなもんだろ」 とりあえずといったところで切るのをやめて、細かい髪の毛がついた顔にふぅーっと息を吹くかけた 目をつぶり急な風に驚いた様にユウは薄目を開けてこちらをのぞいた 「うん..いいね!すっきりしたよ」 短くなった前髪に触れてその顔をじっくり見る 透き通るような白い肌、つぶらな瞳に長いまつ毛、小さな鼻に赤い唇 耳が弱くて敏感なところ 触ればすぐに反応して体を預けてくる 口に含んでやればその目があっという間に潤むから、もっと泣かせたくて手を出してしまう 泣いて縋って追いかけてくれないと自分の意味を見失ってしまいそうだった 「ねー..ユウ..?」 そっと語り掛けるとユウは疑うことを知らない目で彼を見つめる 「もう離れてあげるよって言ったらどうする?」 言われたことが理解できないユウはキョトンとした顔で彼を見つめて顔を緩ませた ユウの首輪に手をかけて金具を外す 長いこと外すことがなかった金具はさび付いてとるのに時間がかかった その下にはユウの細い首を一周するように赤黒くなった痣が浮いていて、一生消えない首輪のようだった 「はい...好きなとこに行っていいよ」 座り込んだユウは脇に手を入れて立たせて体を引きずるように連れて行く そこは部屋の玄関 彼の靴が一足きれいに並んでいた ドアの隙間からかすかに外気が流れ込んでくるその扉の前に立たせて無言の境界線をひいた 「ここ開けて?そしたら自由だよ」 頭をポンと一つ撫でて「バイバイ」と言ってみる 外につながる扉のノブを握ってユウは出られるくらいの隙間をあけた そのままユウの襟を掴んで投げるように外に追い出した 軽いユウの体は転がるように外に投げ出され振り返り目が合うのと同時ぐらいに玄関の扉を閉めて、音が響くように鍵をかけた 外からガンガンと扉をたたく音が聞こえる 扉にもたれ掛かるようにその音を背中越しに聞きながら彼は考える 深い意味なんてない...しいて言うならこれは賭け 完全に突き放した状態でユウははどうなるか ホントの意味で自分を選んでくれるだろうか... もしこの手のひらに自分から戻ってきてくれたならきっとユウの神様にだってなれる気がする もっともっと追い詰めて自分以外何も考えられないようになればいい

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