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第23話 ユウ
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何もない...自分は何も持っていなかった
今あるものは全部彼が与えてくれたもの
安心して眠れる夜とおいしい食べ物
かまってくれる言葉と手当してくれる優しい手
初めてもらったのは赤い首輪
彼からもらった大事な大事な宝物
つけてもらった時、苦しかったけど引っ張られたりするうちに緩くなって楽になった
彼が前髪をハサミで切ってくれた時、くすぐったくて、じっとしていられなくて体をよじってしまった
怒られるかなぁ...って彼を見上げたら大好きな顔で笑った
髪がなくなって彼の顔が良く見えて、彼は笑っていたのに.....なのに急に首輪が外された
大事な宝物なのに突然取り上げられて外に放り出された
転がるように投げ出されて、膝がすりむけてしまった
振り向く間もなくドアは閉められてまた一人ぼっちになった
なんで?
なんで?
ひとりにしないで
とりあげないで
扉のそばに座りこんでじっと彼が開けてくれるのを待つしかなかった
そっと首に手を添えて首輪がないことを改めて実感した
擦りむいた膝を擦ってみたけどひりひりした痛みが取れなくて、やっぱり彼がしてくれないと治らないんだと思った
膝を抱えてその傷を舐めてみたけどおいしくなかった
無意識に爪を噛んでぼんやりと時間が過ぎるのを待っていた
来てくれないのかな...
そう思うと自然に爪を噛む力が強くなって、ギリギリと間に歯を立てていった
「...!」
自分で爪を剥がすのは大変だった
力をかけるのもそれが痛みで止まってしまうのも全部自分次第だったから
皮膚が敗れるような音がして口の中に爪が一枚浮かんだ
それを割れないように大事に大事に手のひらに包んで握りしめていた
それからしばらくして彼が勢いよくドアを開けた
大好きな人の声が聞こえた
自分の名前を..ユウって呼んでくれるその声が大好きだった
だけど自分を見つめる目がすごく悲しそうでどうしたいいか分らなかった
部屋に戻されて痛いくらい抱きしめられも不思議で仕方なかった
なんでそんなかおするの?
ずっとここにいたよ?
ずっとここにいるよ?
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