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その部屋は日当りが良く、一面の窓ガラスから降り注ぐ光が少年を包んでいた
写っている少年は外を眺めるのに夢中で撮られていることに気が付いてないようだ
「ユウ...」
懐かしいその姿にミツルが思わずつぶやくと画面の少年がくるりと振り返る
まるで自分が呼んだ声に反応したみたいだ
振り返ったその顔に浮かぶのは安心しきった穏やかな顔
「ユウくん、手を振ってみて?」
「う...?」
聞き覚えのある声に促されて、ユウは画面に向かって両手を大げさなくらいぶんぶん振って見せている
「へぇ...すごいじゃん...」
ミツルは感心して思わず呟いた
ユウは画面に向かって得意げに目を細めている
ミツルのそばにいた頃のユウはまるで何もできなかった
けれど画面に映るユウは言われたことを理解して行動している
「じゃぁ次は......お名前はなんですか?」
「ぅ....」
ユウは大きな瞳を上へ下へ、左右にとくるくる回しながら考え込んでいる
「んっと....んっと.....ユ...ユウ?」
「良く出来ました!!えっと....次はねぇ...」
するとユウは画面に向かって首を傾げながら指をさした
「せんせ....それ、なぁに?」
「これ?これはねぇ......わっ....ちょっとユウくんっ!!」
ユウは突進するように画面に向かって駆け寄ってくる
「みせてぇ?」
興味津々の顔でキラキラしたユウの顔が画面いっぱいになり、今度はそれが天井を向く
「いててて....」
どうやら動画を撮っている椎名に飛びついて二人一緒に転んでしまったらしい
画面は真っ暗になったり左右を行ったり来たりグラグラしながら足元を映しだした
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