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手を差し伸べる者
「もしもし...ちょっと頼みがあるんだけど...」
突然の電話から聞こえてきたのは懐かしい声
「久しぶり」も「元気だった」もなく、開口一番の悩み相談に椎名は返事ができなかった
「あ...えっと....」
「相談あるから...夜来てよ」
それだけ言って電話を切られた
人の都合なんてお構いなし、有無を言わさぬその姿勢は相変わらずだな...
耳元で繰り返される電子音に向かって心の中で悪態をついた
「椎名先生...次、お願いします」
「失礼、どうぞ、呼んでください」
受話器を置いてすぐさま次の診療の診察の準備に取り掛かかった
彼はとあるビルのクリニックで精神科医の一人として働いている
なるべく投薬に頼らず一人一人の診療時間も十分にとった彼の診療スタイルは口コミで広がって上々の評判を呼んでいた
他にもいるドクターの中では年齢的にも若いほうだが人気は高く、待ってもいいから見てもらいたいという患者がひっきりなしに彼の元へ訪れていた
「お待たせしました、すいませんね、この間も待たせたばっかりだったのに...」
置かれたカルテに目を通して椎名は目の前の患者に向き合った
「先生....私...どうしたらいいんでしょうか?」
「この間から、調子はいかがですか?」
「でも.....」
涙ながらに訴える患者に向かって椎名はうんうんとしきりに相槌を打って同調している
「大丈夫ですからね、もう頑張らなくていいんですよ」
ゆったりとした口調で話す椎名に向かって患者はホッとしたようにハンカチで目を抑えた
「どうしますか?心配ならお薬は出しますけど....」
「どう思いますか?」
「そうですね、じゃあこうしましょう、辛くなったらいつでも来てください、時間外でも僕は見ますから心配ないですよ」
「まぁっ!!先生....ありがとうございます」
患者は何度もお礼をいってから立ち上がるとドアの前でもう一度深々と頭を下げて帰っていった
「先生、次、お呼びしてよろしいですか?」
スタッフに声をかけられた椎名はまだ診ていない患者の人数が気になった
先ほどの電話の相手の約束に遅れたくはなかったからだ
「あとどれくらい?」
「えーっと...10人....ですかね」
カルテを数えながら答えるスタッフの肩越しに見える時計を気にしながら椎名はこの後の段取りについて考えていた
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