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第1話
言われた通りの場所に椎名は10分ほど早く到着した
どこにでもあるようなファミレス前でガラスの窓から中をのぞいてみた
すると、指定された奥のソファに電話の相手が座っていた
早くきすぎたと思って、店の前で待っていたのだが、相手のほうが先に来ていたので慌てて店の中に入る
「お客様...」
「待ち合わせなんで....」
そういって慌ただしく奥の席まで歩いて行った
ソファに座る男は手前から椎名の姿を見つけると低くした姿勢を座りなおしてこちらを見据えた
「ごめんごめん...先にいたんだね」
遅れたわけではないけれどなんとなく待たせてしまったことを詫びながら椎名は向かい合わせのソファに腰掛けた
「久しぶりだね....君とまた会えるなんて...」
とりあえずそう声をかけてみたけれど彼は目を合わそうとせず頬杖をついて窓の外を見つめていた
「どうしたの?なにかあった?」
すぐさまこう切り出したのは、彼が世間話などする気もなく、ただ自分の要求しかするつもりがないということが分かっていたからだ
「僕にできることかな....?」
閉じられた心を開く鍵がなんなのか.....慎重に言葉を選んで尋ねてる
彼は下を向いて組んでいた手を握ったり開いたりして話そうか話さないか迷っている風にも見えた
「僕に頼ってくれて嬉しいよ....」
ボクハアナタノ味方デス....このスタンスは心理学では鉄板
優しくゆっくり彼の心を紐解いていけたら.....なんてまるで仕事であるかのように彼に接してしまう
すると彼は冷めた目で見つめて小さな声で言った
「それ..やめて...俺は先生の患者じゃない」
「あ...ごめん..そうだよね..うん」
本音を見透かされたようで、椎名は取り繕うように笑って見せた
「あはは...ごめん...取り合えず何か食べる?お腹すいてない?」
そういっておいてあるメニューをパラパラとめくりながら言った
「いらない」
「僕が...食べたいからつきあってよ!ね?」
無理やりメニュー表を見せて食事につきあうように促した
せっかく会えてんだから...彼の要求だけ聞かされてサヨウナラなんて冗談じゃない
和洋折衷あるなか椎名はなるべく出てくるのに時間がかかるように肉料理にしてみた
「なんかない?なんでもいいよ?」
そういってページを彼に捲らせるとデザートのページで手を止めた
「甘いものでも食べる?」
そういうと彼はデザートの写真が載った中からプリンを指差して「持ち帰りで」とつぶやいた
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