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「ねぇ、君、大丈夫?」
下を向いて膝の間から地面だけをにらんでいたマナトの頭上で声がした
「......あ?」
思わず顔を上げるとそこには見ず知らずの男の姿
誰?知り合い...じゃないよな?
怪訝そうな顔つきで答えることもしないマナトに男は近づいてしゃがみこんだ
「大変!血が出てるじゃない!!」
慌てたような声をあげながらその男は馴れ馴れしくもマナトの左手を掴んでくる
マナトの左手からは止血したはずのネクタイが緩み手の平にまで血が滴り流れていた
どおりでクラクラするわけだ
どうやら今回は本当に深く切りすぎたらしい
マナトはまるで他人事のように自分の左手をぼんやり見つめていた
「ちょっと見せて?!」
「は?触んな!ほっといて...」
その男の一言に弾かれたように振り払おうとするマナトの腕はなぜかがっちりと掴まれてびくともしない
「なんっ...」
「腕を下に向けてたから流れちゃったんだね、傷は大したことないから」
狼狽えるマナトなどお構いなしにその男はテキパキと包帯を巻いていく
その慣れた手つきは思わず見入ってしまうほど完ぺきだった
「はい、一応応急処置」
「....」
「どうする?心配なら病院連れて行くけど...」
マナトは慌てて頭を振ってそれを拒んだ
こんなの大した事ではない
病院なんて金かかるし、行かなくても死にはしない
それに左手にはこの傷とは別のが刻まれている
それも一つじゃなくて、幾筋もだ
「へ...平気」
「そう?ならいいけど」
その男は穏やかな顔でマナトを見つめていた
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