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「ユウくーん!顔洗った?」
「う...ん、あらったぁ」
「ホントかなぁ??見せてよー」
「きゃー!!あはは」
走り回るユウを捕まえて椎名は洗面所に連れて行く
「つめたいの、やなの。」
「お湯出してあげるよ」
洗面台にお湯を溜めてる間に濡れないようにユウの袖をめくると細い腕が露わになった
その白く細い腕にはタバコを押し付けた火傷の跡が数えきれないほど浮かんでいる
「うぅ...やなの。」
「ほらほら目つぶって?」
なんとか顔を洗わせてタオルで拭いてあげると息苦しそうな顔をみせる
するとタオルから顔を出したユウが鼻をひくひくさせて不思議な顔をする
「なんか変なにおいする...?」
「え...?あぁ!!!大変だっ!目玉焼き!!」
椎名は慌ててキッチンに戻るとフライパンには見るも無残な目玉焼きらしきものが煙を吐いていた
「あーぁ、またやっちゃったぁ」
「まっくろっ!!あはは」
追いかけてきたユウは椎名の後ろからフライパンを覗いて無邪気に笑う
「どうしよう、違うのにする?」
「へいき、めだまは食べれるの」
焦げた目玉焼きをお皿に移すと椎名はテーブルに運んだ
目の前ではイスにお行儀よく座り手を膝に置いたユウが椎名が席に着くのを待っている
「じゃぁ、食べようか、せーの」
「いただきまぁすっ!!」
おぼつかない手つきでフォークを握るユウの手は小指だけピョコンと列を外れている
折れた時にすぐに手当てをしなかったせいで、きちんと握る事はできなくなってしまっているせいだ
「せんせぇ、夜、おはし...する?」
「うん、そうだねぇ、もうちょっとだもんね」
朝ごはんを頬張りながらユウは椎名に聞いて来た
ユウは今、お箸を使って食事をすることを特訓している最中で朝は時間が足りないので今のところ夜だけ使うようにしている
「めだまやきっおいしいね」
「えー...えへへ、ありがとう」
失敗した朝ごはんを美味しいと笑うユウに椎名は笑顔でお礼を言った
毎日の朝はこんな風にして過ぎていく
大したことない朝ごはんに美味しいと笑ったりすることは3年ほど前には考えられないことだった
「昨日プリン買いにいったのに忘れてきちゃった...今日はお仕事終わったら一緒に買いに行こうね」
「ほんとぉ?やったぁ!」
...昨日の夜中、椎名はユウが寝ている間にコンビニまで行ったのに買ったものを忘れてきてしまった
それは怪我した男の子の手当てをしたからだ
左手首から血を流して顔面蒼白で...ちょっとほっておけなかった
またお節介なことしちゃったなぁ...
左手首に無数に残る自傷と思われる傷
...あの子あれからどうしたんだろう?
「ごちそうさまでした!」
食べ終わると元気よく返事をしたユウの声にハッとして時計をみるとあっという間に8時20分を指している
「大変!!ユウくん、そろそろお出かけの用意して!」
「はっ...はい!!」
ユウのスピードに合わせているとのんびりゆっくり時間が過ぎてしまう
毎朝慌てるように片付けて家を飛び出すのもお決まりだった
「ユウくん!!もう出れる?」
「まって!まって!バッテンつけるの」
ユウは慌てて机の上の卓上カレンダーに手を伸ばす
太いマジックで日付の上に×マーク
週末には大きく○印、月末にはもっと大きく◎印が書いてある
ユウはニコニコしながらそれを見て「あと3つ」と呟いた
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