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「待って!走っていかないで」
家の鍵をかけるほんの少しの間でもユウは目を離すとどこかへ行ってしまう
走って大通りまでいこうとするユウを呼びとめて手を繋ぎ、会社まで急いだ
「みてぇっ!!おいしい雲だっ」
「おいし”そう”だねぇ」
晴れ渡る空に浮かぶ雲を指しながらなにかに見立てて笑っている
「なんであれは浮いてるの?」
「えーっと...それは」
また始まった...
椎名はユウに笑顔を見せながら内心で汗をかき始める
なんで空は青いの?どうして雲は白いの?
あれはどこに行くの?
なぜ?なに?どうして?
言葉を覚えたばかりのユウは行く道々、椎名を質問責めにする
純粋な彼の質問は大人の椎名には答えられないものばかり
それを交わしながら答えているといつのまにか会社の目の前に着いていた
「おはようございます」
大きなビルの入り口をくぐると受付嬢の女性が完璧な笑顔で応対する
「おはようございます」
「おはようございます」
すれ違うスーツ姿の人達の中で、私服の2人はなんとも場違いの存在だった
エレベーターを待つ間、同じように並んだ人達はユウを見るなりみんなが口元を緩ませる
「おはよう、ユウくん」
「おは...おはよう...おはよう」
この会社の社員はほとんどユウを知っていてみんなが声をかけてくれる
エレベーターが来ると他の人達と一緒に乗り込み2人は自階のボタンを押した
エレベータの一面の透けた壁から上に上がる景色を眺めるのがお気に入りのユウは窓にへばりつくようにしている
チンッと音がなるとあっという間に到着した
「ユウくんバイバイ!」
「バイバーイ」
降りる直前一緒に乗り込んだスーツ姿の男性に手を振られ彼は笑顔で手を振り返した
毎朝ユウは暖かい人達に迎え入れられて一日を過ごす
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