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カーペット張りの廊下をまっすぐ進んで右側に”医務室”とプレートがかかった部屋がある ここが椎名の職場になる 扉を開けるとカーペットの床にシンプルな机と椅子 パーテーションで区切った奥には簡易ベットともう1つ控え室のような部屋を設けてある 「きょうはおてんきだねぇ?せんせぇ」 穏やかに笑いながら大きな窓に近づいてユウは外を眺めて時より何かに手を振っている この部屋は全面窓張りになっていて、いつでも日の光が部屋に差し込むようになっている ここは社内で一番日当たりが良いフロアだ 椎名はユウがいつでも外を眺めていられるようにここに医務室を作ってもらった 「せんせぇ...だれかいる」 窓を眺めていたユウがパーテーションの奥のベットに誰かの気配を感じる 「またか...」 椎名はそれが誰なのか瞬時に気づいて奥へと近づいた 「あー!!りょおくんだあっ...」 「あ...?朝?もう?」 けだるそうに起き上がる男はスーツのまま寝ていたらしく高そうなワイシャツが皺になっていた 「涼介、また徹夜?」 「あー...ちょっと終わんなくて」 首元を掻きながら胸ポケットからタバコを取り出すのを椎名は咄嗟に制止する 「ここ、禁煙だけど」 「うっせ、俺の会社だぞ」 彼はゆるゆると立ち上がり換気扇の下に向かう 「たまには家に帰れよ、全部1人で仕事することないだろう」 「うるせーな、社員に残業なんかさせられるかよ,残業させるのは無能な上司って言葉知らねーの?」 髪をかきあげタバコを咥える彼はこの会社の社長 藤江 涼介だ 若手青年実業家として成功しこのビルのフロアを埋めるほどの社員を携える敏腕社長である 「マサキ、コーヒー入れて」 「はいはい」 そして唯一マサキを名前で呼ぶ人物だ 実は椎名と涼介は幼馴染じみなのである 昔から彼のハングリー精神と向上心は見事なもので椎名がふらふらとしている間にあっという間にビジネスの階段を駆け上がって行った 仕事人間の彼はほとんど自宅に帰らずここのベットで夜を明かすことが多い 友人の椎名としては少しでも自宅でゆっくり過ごしてもらいたいものなのだが... 医務室にはお茶程度なら出せるように揃えてあるので椎名は言われた通りにコーヒーを入れたマグカップを渡した 「やっぱ、産業医を雇って正解だな、医務室あったら帰る必要ねーよ」 「それとこれとは別だけど!」 ちなみに産業医とは椎名の事 椎名はれっきとした医師免許を持った医師である ちなみに専門は精神科 ...だったのだかいろいろあって職を追われてしまい路頭に迷いそうだったところを彼に救われた 会社の産業医として専属で雇ってくれたのだ 今は過労死だパワハラだと肉体的にも精神的にも風当たりが強いらしく専属で医者を雇っているとなれば会社としても万全だと笑ってくれた そしてその頃、保護したばかりのユウの事も一緒に面倒を見てくれた 例えばユウは監禁されている間、外に出る事もなく戸籍も登録されていなかった 日本はまず戸籍がなければなんの制度や恩恵も受けられない その就籍許可の申し立てや他人の僕が一緒に生活できるように取り計らってくれたのは彼だ 弁護士や役所の事務的な手続きも買って出てくれて2人で生活する場所も整えてくれた そして今もこうしてユウを連れて出勤できるようにしてくれている 何から何まで親友様々だった 感謝してもしきれない 「もうすぐ仕事始まるぞ」 「わーってるよ。どーせ呼びに来るだろ」

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