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「株式会社*** 産業医 椎名マサキ」 ぐしゃぐしゃになった名刺を片手にマナトは街を彷徨っていた でかいビルが並ぶオフィス街 右も左もおんなじ景色 すれ違う人たちは忙しそうにセカセカと歩いていてとても道を尋ねられそうにない 「電話しないとやっぱりヤバいかな」 分かっているのにしなかったのはそこで断られるのが怖かったから 見ず知らずの自分を咄嗟に助けてくれたあのおっさん...もといお兄さんはきっと善良な男に違いない もしかして路頭に迷った俺に何か手を差し伸べてくれるんじゃないか? 一晩だけでも...泊めてくれたりしてくれるんじゃないかな ただじゃダメなら金はないけど...身体ならある マナトの頭は自分勝手な妄想でいっぱいだった いい加減毎日知らない相手を探すのも寝るのにこぎつけるのも疲れてしまった どうにかこうにか特定の相手を見つけて、ここらで安定した相手が欲しい だからまずは会ってもらわなければいけないのに電話なんかで断られたら計画は丸つぶれだ マナトは上を見上げて広がるビルに目を凝らす 「つってもどこにあんだよ、この会社っ!!」 どこもかしこも大きなビルでそこへ流れるように吸い込まれていく人たちは上等なスーツに身を包んで格別エリートに見えた 俺なんか一生縁がねぇな... やるせない気持ちを抱きながらマナトが振り返るとそこには一段と規模が大きなビルが目についた 「あった!!」 思わず叫ぶと通りすがるサラリーマンたちは変な顔をマナトに向けている こんな大きなビルに勤めているならひょっとすると金持ち!? 期待に胸をときめかせながらマナトは軽い足取りでそのビルに入って行った

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