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ユウと椎名

「ほら、おりこうさん、こっちだよ?」 「ぅぅ...あっ...」 手のひらと膝が床に擦れて痛い 腕が痛くて、身体を支えていられない 一歩進むたびに、ガクリと上半身が崩れてしまう ほっぺたを床に打ち付けると、直ぐに首輪に繋がれた鎖をひっぱられて、前に進めと促される ユウは四つん這いで首輪に鎖をつけられて、彼に引かれて部屋中を歩き回されていた 「俺、ワンちゃん飼ってみたかったんだよね。お散歩ってこんなかんじかなぁ」 ずっと下を向いた状態で、ユウはほとほと疲れてしまっていた お腹も空いたし、腕も痛い いつもご飯を食べさせてくれるのに今日はもらえないのかな... ーーだけど、それは嘘をついたから 「なにが見えたの?」 なにもないって嘘をついたの だっていたんだもん かわいくてちいさいの えっと......言えるようになったの なんだっけ そうだ...「とり」 だけど、だめだよっていったから 好きはだめ 「俺以外好きっていうなよ」っていわれたの すきはうなづいて、だけどそれは「俺」だけで きらいは横に首をふる 決まってるの 決められているの だけど、さいきん、わからない いろんなことをいわれてよくわからない 「ユウ、ワンワンって言ってみてよ」 「...?わ?」 「ワンワンだよ。ワンちゃんの鳴き声!」 ーーわんちゃんてなぁに? 鎖を引かれると首輪が喉に食い込んでえづいてしまった 「ゲホッゲホッ!」 「あーぁ、もういいや!ほら、えさ食べな」 彼はうんざりしながら椅子に座って足を組んだ その足元に小さなお皿 中にはご飯が盛られていた ーーいいのかな...さっき手を伸ばしたらあの人に怒られた ユウは餌の前にペタリと座り込んで彼を見上げる 「ほら、自分で食べな?」 見下ろす彼の目が凄く冷たくて、今日は食べさせてもらえないんだと分かった ユウが皿に手を伸ばすと彼はそれを蹴り上げて、勢いよく皿が宙を舞って床に転がった ご飯が床に散らばって皿がガラガラと回って止まった 「ユウ、犬は手は使えないから」 ジャッーーと鎖をひっぱれて首が締め上げられた ほら ... さいきんあたらしいことをいうの わからないんだもん わからないから怒られて、わからないから叩かれる 「床舐めて?落ちてんの食べな」 顔を床に押さえつけられて落ちたご飯を口に入れられた 「ゴホ.....ゲホッ」 どうすればいいの? 分からないことががいっぱいで彼の言っていることについていけない だけど分からないと怒られる...それが怖くて勝手に涙が溢れてくる 「ふっ......ひっく、ひっく...」 思わず泣きだしてしまったユウの髪を掴むと彼は顔を上げさせた 「ユウが全部悪いんだよ?俺に嘘つくから...ユウのせいで先生も倒れちゃったんだよ?」

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