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祖母の死を見てから、俺は「死」に夢中になった
といっても、そんな映画を見たり、本を読んだり、その程度
実際に人を殺すわけにいかないのは子供の俺でも分かる
ただなんで殺してはいけないかは分らなかった
それをしないのはつかまって自由がなくなるのが嫌なだけ
中でも凶悪事件のルポルタージュなんかはたまらなかった
中身が残虐であればあるほど、読んでいてゾクゾクした
生々しければそれだけ、想像力をかきたてる
そして、逮捕される記述で必ず思う
俺ならこんなヘマはしない
そんなある日、クラスの一人が話しかけてきた
体がでかいやつで、声がでかい
本を読んでいた俺に向かって「ガリ勉」とはやし立てた
別にそんなの相手にしなくて構わなかった
くだらなすぎて、目を合わせる気にもなれない
そんな俺を見て、奴はイライラしたのか俺の呼んでいた本を取り上げた
あーめんどくさいことになったな...
「返してよ」
奴は笑いながらあろうことかその本を床にたたきつけて踏んだ
「あはは!とってみろよ!」
大したことじゃない
それは今思うと大したことじゃない...けれどあの頃の俺は子供だったから
怒りの沸点も低かったんだ
まだ読み終わってない本を踏みつけられたその瞬間、俺は、奴の首に飛びついた
両手で首を絞めあげると、奴は床に倒れこんだ
クラスメイトがぎゃんぎゃん騒いでるのが聞こえる
体格差があっても、ふいをつかれると倒せるんだなと首を締めながら思う
俺を怒らせたらどうなるか、俺の邪魔をするとどうなるか...
こいつはもともと、声がでかくて耳障りだったんだ
俺は机の上の鉛筆を手に取って、そのまま奴の喉元に突き立てた
柔らかい喉元にずぶりと刺さる手の感触に背筋がぞわりとする
それを勢いよく引き抜くとその瞬間、血が噴き出して俺の服を染める
それはまるでスローモーションを見てるみたい
騒ぎを聞きつけた先生たちがバタバタと入ってきて俺を取り押さえつけ、ピクピクと痙攣しながら泡を吹く奴は抱えられて、視界から消えた
床には血だらけでそれを見ていたクラスメイトはパニックで泣きだした
俺はこの日「できすぎる子」から「やりすぎる子」に変わった
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