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知らない世界

「熱い?怖くないよ。目あけて?」 ギュッと瞑って視界を遮ってもしかしたら襲ってくる”何か”に無意識に備えてしまう身体 抱えられた手がそのまま首に伸びて締められたらどうしよう そのまま身体ごと沈められたらどうしよう 頭の中があらゆる恐怖に満たされて今にも溢れそうだった ユウの腕は助けを求めるように彼に縋りついて強く巻き付く 怖いことから助けてくれるのは「彼」 恐怖に覆われてしまうと分からなくなってしまうのだ それを与えているのもまた「彼」だということを だから大好きな彼の声は甘えたい時に限って牙をむく 「ユウ?」 頬に指先が触れてはっとした ゆっくり目を開けるとそこには息が止まりそうな苦しさじゃなくて柔らかく笑う彼 「......ぁ」 「怖くないでしょ?ね?」 口元を緩める彼と目が合った ユウの胸がトクンと音をたてた 「...?」 「なぁに?その顔、へんな顔」 「ぅ..ぁ...んふっ!?」 彼は呆け顔のユウの鼻をつまんで笑った びっくりしたユウが体を跳ねさせるとパシャンとお湯が彼の頬に跳ねた そこから零れた雫が首筋を伝って鎖骨にたまっていく トクン...トクン... いつもと違う胸の音 彼が瞬きをして睫毛が揺れるたびに胸が鳴る 「ユウにいいもの見せてあげる」 彼はそういって手の平をユウの前に広げた 手のひらに泡をつけてもむようにしてからその手で輪っかを作る 輪っかになった手の間を少ユウは不思議そうにじっと覗いている 大人しくじっとして真剣に覗いている姿が面白くて彼はクスクス笑っていた そして彼がその輪の中に息を吹きかけると薄い皮膜はシャボン玉になってユウの目の前に浮かんだ 「...!」 掴もうとユウの指が触れた瞬間それはじけて消えてしまった 「あはは、触ったら消えちゃうよ」 そういってまた息を吹きかける 彼の手の平から魔法のように現れた大きな透明の丸い泡 ユウの目の前でぷかぷか浮かんではじけて消える 捕まえたいのに何度やっても掴むことはできない 「ユウもやってごらん?」 ユウを抱き寄せて指を絡めて同じように輪を作らせる 「ほら、ふーって...ゆっくりだよ」 ゆっくりといわれてもユウはひたすら強く息を吹きかけてしまいなかなか思う通りにできない 「ゆっくりだってば...ほら...ふぅって」 「ふ...ぅ..?」 一生懸命いわれた通りに息を吹きかけるとやっと一つシャボン玉が飛び出した 「ぁ...!」 「やった!できたね、ユウ、すごいね!」 ほめられて嬉しくなったユウは何度も手の平に息を吹きかける でも彼に手を添えてもらえないとうまくいかなくて....何度も何度も彼の指を引っ張っておねだりをする 「いいよ、もう一回ね?」 夢中になってせがむユウに嫌な顔一つせず何度も彼は答えてあげる お風呂が怖かったことなどユウは忘れてしまっていた 胸がいつもと違う音をたてたことも、彼がいつもよりうんと優しくてなんだか変に思っていたことも何もかも頭の中から消えてしまっていた

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