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知らない世界
「あっ!ちょっと待って...ユウってば!」
ユウが脱衣所から飛び出してくる
頭はまだ濡れたままユウの走る後にはぽたぽたと水滴が落ちる
そんなことも気にせずユウは彼の手からすり抜けて興奮したように走り回っている
「先生!ユウ捕まえて!?」
脱衣所から着替えの途中で半分腕を入れたTシャツに着替えながら彼が叫ぶ
「...ぅあっ?」
「ユウくん!捕まえた!」
椎名がユウを腕の中にとらえて抱き留めると、ふわっとした石鹸のいい匂いが鼻をかすめた
頬をピンク色に染めたユウは捕らわれた腕の中から満面の笑みで椎名を見上げた
「ほらユウ、髪乾かさないと...風邪ひくでしょ?」
着替え終えた彼がバスタオルを片手に困った顔で二人に近づいてくる
彼がユウの頭にバスタオルをかぶせてわしゃわしゃと拭くとそれに合わせてグラグラと体が揺れる
「もう...ほら座って?ちゃんと拭いてあげるから」
「しょうがないなぁ」とあきれながらため息をつく彼の顔はどことなく楽しそうだった
彼の足の間にちょこんと座って大人しく髪を乾かしてもらっているユウもニコニコと笑って見える
「なんだか楽しそうだったね、声がこっちまで聞こえていたよ?」
二人のほほえましい雰囲気に椎名は声をかけた、かけずにはいられなかった
だっていつだってユウは泣いていた
こんな顔できるんだなって
することもさせることもできるんだなって
「ちょっとだけ...遊んだだけ、ねぇ?ユウ?」
ねぇ?としめすように首を傾けて笑いかけるとそれにつられてユウも首を傾ける
「良かったね、ユウくん」
それがどれだけ楽しかったのかユウを見るだけ伝わってくる
ふと気づくとユウは彼の膝の間でしきりに手を合わせて何かしている
なんだか寒い時にかじかんだ手を温めるみたいな...そんな仕草
「なぁに?それ」
椎名はユウの不思議な仕草が気になった
それに気づいて彼が髪を乾かす手を止めた
足元でうずくまるようなユウを覗き込んでそしてすぐに噴き出した
「あはは!ばかだなぁ」
「どうしたの?」
ケラケラ笑いながらユウの仕草を眺めて言った
「お風呂でね、シャボン玉つくってあげたんだ」
「シャボン玉?」
「うん、ほら泡で作るやつ...気にいったみたい」
合わせた手の平に息を吹きかけては何度も首をかしげている
しげしげと指先を眺めてコクンと頷いて...そしてまた同じことを繰り返すのだ
彼がそんなユウの手に触れるとなんだか不満そうな顔で瞬きをする
おかしいなぁ..とまるで訴えているみたいだった
クスクス笑いながら彼はユウの前髪を掻き上げておでこと自分のおでこをコツンとつける
目を細めて口元を緩ませながら彼はユウの透き通った瞳に映る自分の顔を覗く
「また明日ね?約束したでしょ?」
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