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知らない世界
いつもなら目が覚めるのは彼よりもユウが先だった
彼の起き抜けの顔
ふっと笑う笑顔
少年の一番好きな顔
「.....」
ぼんやり目を開けたユウが見たのは誰もいない部屋
ベットは今しがた人がいたようにぬくもりが残っていてシーツもよれているのに彼だけがいない
「...ぁ...」
急に血の気がひいてユウは飛び起きた
身体の中でサァーっと波がひく音が聞こえるようだった
ぐしゃぐしゃになったシーツを手繰り寄せてまるで自分を隠すように体を覆った
きょろきょろ部屋を見渡して首を捩って彼の姿を探す
探しに行きたいけど勝手にベットから出たら怒られるだろうか...
体勢を変えたときシーツの波からこぼれ落ちるようにぬいぐるみがベットから床へと落ちてしまった
コロンと転がってベットからほんの少しだけ、近いのに手を伸ばしただけじゃ届かないような微妙な距離
落ちないように身体を支えながら腕を伸ばして指先をピンと張った
「ぅ...ぁ」
もう少し、もう少し....
もう少しで届きそうで指先がぬいぐるみの耳に触れようとしたとき寝室のドアが開いた
「ユウ?」
その声に驚いて身体が滑るようにベットから落ちていく
「危ない!!」
床に身体を打ち付けるはずで目をギュッとつぶっていたのに身体に痛みは襲ってこない
「もう、何してるの?ユウ、危ないよ」
「ぁ....」
ベットから落ちかけたユウを抱き留めて彼は言った
床に転がったぬいぐるみを見つけてそれを簡単に拾い上げる
「これ?落としちゃったの?」
彼の手に握られてぬいぐるみを見上げてユウはコクンと頷いた
「じゃぁ、はい」
望んだものが簡単に手の中に戻ってくる
「朝ごはん食べよっか、先生も待ってるよ?」
ニコッとした彼の顔は今日朝一番に見れなかった笑顔と似ていた
「どうする?抱っこしてあげようか?」
彼はユウの目の前に長くて大きな腕を広げた
「....」
「ユウ?」
ユウは伸ばされた腕に遠慮がちに触れて首にしがみつくと彼はそのままグンっと抱えて立ち上がる
「ユウの好きなオレンジジュースあるよ」
頬を摺り寄せて甘い声で彼は言う
「ぉ...あ?」
「オレンジジュース」
クスクス笑いながら彼はユウとともに寝室を後にした
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