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大事な名前

すべてのモノには名前がある 例えば今朝食べた甘いのとかオレンジ色の冷たいやつ、それを入れた入れものまで全部名前がついているみたい 彼は自分のことを「ユウ」と呼ぶから自分がユウだと分かる 彼はあの人のことをたしか...「せんせい」と呼んでいた ......じゃぁ彼の名前ってなんだろう ふと今まで彼の名前を知らなかったことに今更気づいた 聞いたことなかったなぁ そうか...聞いても覚えられないから教えてもらえなかったんだな 返事すらできない自分に呼ばれもしない名前を教える必要なんてないんだから 「ユウくん、もう一回言ってみて?」 「うあ...」 ユウは椎名と向かい合って言葉の練習をしている 「本当に喋れるようになんの?」 彼はイスに座りながら高みの見物だった 「できるよ、ユウくんはちょっとのんびりしてるけど、知らなすぎるから分からないだけだと思う」 「ふーん...そういうもんかなぁ」 彼は椎名に向かって口をパクパクしながら顔を真っ赤にして一生懸命やってるユウを見て笑う 煙草を咥えながら2人を眺めてゆっくり煙を吐いた ーーー知らなすぎるのは教えてなかったから 一つ知ればまた他が知りたくなる 俺以外のものがユウを満たすのが嫌で閉じ込めた 俺以外知らなければいいと本気で思った 何もないところから何かを見つけては一人ぼっちの寂しさを紛らわせてるユウにそれすら取り上げて力でねじ伏せてきた でも今はほんの少しだけ ユウが思ってる事を分かりたい 分かってあげたい 痛い時に痛いとか嫌な時に時に嫌だとかそれすら言わせなかった俺にそんな資格があるのかどうかはわからない 先生にならユウは本音をいうのかな 先生なら分かってあげられるのかな ユウは先生といた方がいいんじゃないのかな それが正しかったとしてもできるかどうかは別だけど

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