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大事な名前
「ミ・ツ・ルくん...ミツルくんだよ?言ってごらん」
「う...ぁ?」
椎名はユウと膝を突き合わせ何度も同じ事を繰り返す
聞き覚えのない音、したことのない口の形、動きの鈍い喉
それでもユウは椎名の見よう見まねで口を動かしている
「もう一回やってみよう!ミ...ほら!」
「んぅ...ケホッ!」
少し離れたところで二人を眺めていた彼はユウがむせたのを機に立ち上がった
二人に近づきドカッと座りこんだかと思おうと、口をぽっかり開けたユウの頬に触れた
「もういいよ」
頑張ったユウをねぎらうようにしきりに頭を撫でている
強制終了の態度を見せる彼に椎名は半ば強引に続けようと熱くなっていた
「なんかできそうな気がするんだよ?」
「無理させすぎ」
そういわれてユウを見てみるとたしかにおでこにうっすら汗が滲んでいる
椎名は我に返ってユウに向かって慌てて謝った
「あ...ごめんユウくん!難しかったね?」
二人が納得しても止められたことが分からないユウはまたぞろ口を大きく開けた
その時、彼が急に人差し指を首輪にひっかけて引き寄せた
「やめろっていったろ?」
小さく金具がカシャンと音をさせた
低く静かな一言はそれが終わりだということを分からせるには充分だった
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