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大事な名前

「よぉし!ユウくん!今度は僕と遊ぼうか!」 いい加減もう嫌だとばかりに顔をしかめた彼を見て椎名は助け船を出すことにした 「ほら!ユウくん、遊ぼう」 彼にべったりだったユウが身体を捩って椎名のほうを振り返る そして驚いたように声をあげた 「あっ!」 「遊ぼう?遊ぼうよ!」 ユウの目に映るのは椎名の顔の前でフリフリとおどけるように動くぬいぐるみ 「んぁっ...」 また会えた!!とばかりに目を輝かせて手を伸ばしてくる そんなユウの態度を見て彼は怪訝そうな顔で椎名の手もとをのぞきこんだ 「なに?それ」 「ユウくんの好きなぬいぐるみとおしゃべり」 「は?」 ユウは椎名が動かすぬいぐるみを追いかけるように彼の上からどいて夢中になっている 「ぁ...あー」 何かユウにしかわからない言葉でしきりに話しかけては笑っている 「ほら...なんか話したそうでしょ?ユウくんて話し方がわからないだけなんじゃないかな」 「...ふーん」 彼はユウの手からぬいぐるみを取るとそれをまじまじと見つめた なんの変哲もない ...というか俺が買ってきたたいしてかわいくもない犬のぬいぐるみ 電池が入っているわけじゃないから動きもしないしもちろん話もしない 先生が腹話術みたいにしてやっているだけなのに本物みたいに信じ込んでるユウ バカじゃねーの... そう思いながら彼は手の中で2、3回それを跳ねさせた ふとユウに目を落とすと不安そうな顔をして自分を見上げているのに気がついた 取られたと勘違いしているのだろう 眉をよせながら見つめる大きな瞳が不安で潤んでいる

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