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約束
ミツルが食卓に並べたものは適当だといっていたわりには豪華だった
チキンや彩どりがキレイに盛り付けられたサラダ、パスタも作ってあってまるで前々から準備してあったみたいだった
それならそうと先に言っておいてくれればよかったのに...と椎名は思う
なにかそれなりのものを用意してあげられたかもしれないのに...
誕生日ケーキにはロウソクが定番だというのにミツルは買い忘れたといってケーキに灯がともることはなかった
「先生、歌ってよ!」なんて誕生日ソングをねだられた椎名はしぶしぶながら歌を披露した
定番のその歌すら知らないユウは椎名の歌をすごく喜んで聞いていて、とくに自分の名前が入るところは手を叩いて声を上げていた
「ユウ、はい、あーん」
ミツルにいわれるとユウはこれ以上開かないぐらいの大口を見せた
「お前、こんなに食べれんの?」
クスクス笑いながらフォークにのせたケーキをユウの口に運ぶ
初めての誕生日パーティー、バースデイソングにイチゴのケーキ
これ以上ないぐらいに顔をほころばせながらユウはこの時間を楽しんでいた
三人ともいつもと違う豪華な食事につい時間がたつのも忘れてはしゃいでしまっていた
「ユウくん、僕のイチゴあげようか...てあれ?」
「ユウ?」
気づくといつのまにかユウはイスに座りながらカクンとして眠りに落ちかけている
器用にイスから落ちそうで落ちなくて頭がふらふらしてしまっている
その姿がおかしくて二人で顔を見合わせて思わず吹き出してしまった
「ぷっ!食べながら寝ちゃってるし...」
「あーぁ、もう、風呂も入ってないっつーの」
肩に手を置いて軽くゆすってみても起きそうにない
ミツルはユウを寝かせようと抱き上げる
「じゃあ、今日はもうお開きだね」
ふぅっと一息ついて椎名はミツルに言った
「ここは僕が片付けるからユウくんと寝てあげなよ」
「...でも」
言いかけたミツルの肩でピクンとユウが動いた気がしたので椎名は声を出さずにうなづいた
「ありがとう、じゃあ先に寝るね」
軽々と抱えて寝室に連れていく肩越しに穏やかに眠るユウの顔が見えた
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