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「私は心配なの、あの子がこのまま変なことしでかさないかって...」 「なに言ってるんだ、そんなわけないだろう」 「だって今までだって危ないことがいろいろあったじゃない!!」 両親が俺の話をしているのはすぐにわかった こんなのは初めてのことじゃない 俺は知っていた 夜中にいつも二人が俺の話をしていたことを 誰かに相談した方がいいんじゃないか、どこかへ連れていった方がいいんじゃないか なにが間違っていたのだろう 自分たちは一人息子を大事に育ててきただけなのに... 「あなたが子猫のことだって...」 「心配ないよ、あんなになついているじゃないか」 「だって...よく言うじゃない」 ”殺人者が人を殺す前に小さな動物を殺してたっていうことが...” その言葉を聞いた時、そんな風に思われていたことに愕然とした そのままリビングに行くことはできずすぐさま自分の部屋に戻った ベットに潜り込んで目を閉じて考える 穏やかに笑いながら二人とも俺のことを監視していたんだな こいつはイカレた奴かそうじゃないか...もしなにかあったとき自分たちはどうしたらいいか 殺してやりたい奴なんて腐るほどいたけど我慢したのは俺にだって理性があるからだ やっぱり周りはバカばっかりで誰も俺を理解なんかしてはくれない なんだか悔しくてかぶった毛布を握りしめていたらもぞもぞと動く気配がした ニャァ...と小さく鳴くと俺の丸まった体の中に入ってくる 何でお前は俺に懐くの...? 無条件に信頼して頼ってくる存在が急に愛おしく思えた 今までそんな風に思ったことなどなかったのになぜか俺はソイツに手を伸ばし力いっぱい抱きしめた 小さくて脆くてほんの少しの力で骨が折れてしまいそうな儚い命 俺の手の中にいてくれればそれでいい そんなに俺に懐くなら俺だけのためにいてほしい 母がつけた名前も、父が買ってきた遊び道具も全部捨てて、俺だけのものでいればいい もうこの手の中から絶対出さない、誰にも見せてなんかやらない そんな風に思って力一杯抱きしめてその日俺は眠りについた ーーそして次の日、朝起きるてみると子猫は小さな舌をダラリと垂らして冷たくなっていた それは俺の想いが強かった証 やっと大事にしようと思ったのに... 俺の気持ちが重かったのかな 殺したかったわけじゃなかったのに きっとアイツが脆かっただけ もし次があるなら何もしなくても俺を愛してくれて受け入れてくれて猫よりタフなものがいい

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