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「精神科なんて緊張しちゃうよねぇ...大したことないから心配しないでね」 その人は柔らかく笑って言った 猫が死んだあと母親は半狂乱になって俺を責め立てて泣き喚いた 予感は的中...この子は頭がおかしいんだ!と 人づてにこの精神科を紹介されて訪れるのに三日もかからなかった 母親は早く入院でもさせて隔離しておきたのかもしれない 「えーっと..まずはなんて呼んだらいいかな」 「みつる」 「じゃあ、みつるくんね、僕は椎名って言います、どうぞよろしく」 それが椎名先生との出会いだった なんだかすごく若く見えて、白衣なんか着てなければ学生にしか見えないようなそんな人だった 今までのカウンセラーとかはおばさんみたいのが多くて、やたら分かったように話をしてきて正直うんざりだった 自分の意見ばかりいうような人間と分かりあうことなんてできるわけない だけどこの椎名先生はほかの人とは少し違った 俺のしでかした事への質問なんか一切しないし、何か好きなことを言うとそれについて雑談して一日が終わる ゲームでも漫画でも一つ言えば次の診察日にはそれを調べて感想を言ってきたりした 「なんで何も聞かないの?」 ある日質問した俺に向かって目を丸くしながら飲んでいたお茶を吹き出した 「え?聞かれたかったの?」 そして申し訳なさそうに付け加えた 「なんだか聞きづらくて聞けなかったんだ...僕ね、向いてないんだよ、この仕事」 精神科医なのに聞きづらいとか意味わかんないし... てゆうかそれも技法のひとつなのかな...なんて勘ぐったりもしたけど先生はいつ会ってもおんなじように笑っていた 毎週診察という名ばかりのものを受けに行き、たわいもない話をしてその日が終わる それが当たり前に続いていくと少しだけ自分の話をしたくなって、いつの間にか言いたいことが言えるようになった 猫が死んだこと 殺したくなかったこと 大事にしたかったこと かわいいと思えたこと 先生は俺の話を最後まで一切口を挟まないで聞いてくれた 「そっかあ...じゃあこれから君が本当に大事なものが見つかるように僕が手助けをしていくね」 本当に大事なもの そんなものが俺に見つかるのだろうか... 自分の身内ですら亡くなってもなんの感情も湧かなかったのに 先生はその答えを教えてくれるのだろうか その時の俺は先生の言葉が半信半疑だった

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