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「一人暮らしってどう思う?」 先生に聞いてみたのは通い始めてどれくらいたった頃だろう 猫の事以来両親は俺と目を合わすこともなく家に居づらい...というのも本音だった 「先生って一人?奥さんいるの?」 「まさかっ!一人だよぉ...もうさみしい一人もんだから」 「さみしいの?」 「まぁね、遅く帰って真っ暗の中...さみしいなと思うこともあるよ」 今まで誰も周りにいなかったしさみしいなんて俺でも思ったりするのかな けれど結局実家に住み何から何まで用意された中では本当の一人だなんて言えないことも分かっていた ”親の庇護のもと”というのは恵まれた環境であること だから何から何まで一人でやってみたかった 一人の自由とそこから得る何かで自分は変われるんじゃないかと思った そしたら先生の言う”大事なもの”だって見つけることができるんじゃないかって... 「もし本当にしたいなら僕は応援するよ...まずはご両親に話をしないとね」 そうして俺は久しぶりに親とちゃんと話す機会を作ってもらった 両親と面と向かって話し合いをするのは本当に久しぶりだったし最初はなんて言えば分かってもらえるのか難しかった 一人暮らしをしたいこと 一人になって今の生活が当たり前じゃないってことを知りたい 他人とうまく付き合えるようになりたい そして...猫は大事にしたかったことを告げた 父からは生活はそんな簡単なものじゃないということを散々諭された 必死に説得して俺からは絶対折れることはなかった 反対されても毎日毎日説得し続けてやっと了承を得ることが出来た時、俺は思いのほか嬉しかった 「そんなに言うならやってみなさい お前がそこまでいうことなんか今までなかったから...俺はお前を信じているからな」 父が了承し母は了承せざる終えなくなりしぶしぶ納得した 「本当に大丈夫?一人暮らしなんて...心配だわ」 大事な一人息子をこんなに早く独り立ちさせることに戸惑いながら息子のためにしぶしぶ了解をした...という理解ある母親を演じながら 本当はこんな犯罪者の予備軍のような息子を外に野放しにして大丈夫なのかしら... と恐怖と疑心に揺れていたその瞳を俺は一生忘れない 理由はどうあれ一応未成年である身で一人暮らしの了承を得たことは俺にとってプラスだと思う 後日、先生に話すとすごく喜んでくれて、一人暮らしの仕方や大変なことなどいろいろな話をしてくれた 親からの一人暮らしの唯一の条件が一つある それは引き続き椎名先生のところに通うことだった

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