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「あ?」 思わず口走った声にそいつは顔をあげて俺を見た 「あっ...」 顔は青あざだらけの小さな男の子 まだ肌寒い時期なのに肌着だけで震えるように体を擦っている 腕も足も細くて今にも折れそうに痩せていた 俺を見つけるとベランダの柵に手をかけるようにして飛びついて声をあげた 「あ...あのっ..!窓開かないの...あのっ」 「は?」 「えっと!!あのね、えっと...ママがいなくて...窓に」 たどたどしく必死に俺に伝えてくるのは要約するとこうだった 「だから、お前はベランダに閉めだされてママはどっかに行ったきり帰ってこないって..そういうこと?」 「う...うん...そう、たぶん...そうなの」 自分の体を抱きしめるようにしながらそいつは言ってコクコクと何度もうなずいた 「俺に言われてもお前んちの窓を開けることなんてできないんだけど」 実際には管理会社とか警察とか...方法はあったかもしれないけど変な面倒に巻き込まれるのはごめんだった 「そ...そうかぁ...困ったなぁ」 とくに泣くわけでもなくなんだかやけに落ち着いていて不思議な感じがした 「寒くねえの?」 「えッ!?えっと...うーん...ちょっと」 そういいながらクシュンと豪快にくしゃみをして、その細い腕には鳥肌が浮かんでいた それがなんだかあまりにも寒そうで思わず上着を脱いで投げ込んでやった 「えッ!?いいの?」 驚いたように声をあげていそいそとそれを羽織った 自分でも何でこんなことしてやったのかは分からない きっとほんの気まぐれ できれば静かになって夜寝かせてくれればそれでいい 「あったかい...ありがとうお兄ちゃん」 そいつがそういった時きゅるるっと今度は腹のなる音がする 「食ってねえの?てかいうから居んの?」 そいつは指折り数えて考え込んでいたが指が折れていくたびに相当な日数な気がして聞くのをやめた 「ちょっと待ってろよ」 そういって一旦部屋に戻ってさっき買ったコンビニの袋から菓子パンを取りだした それを隣に投げてそいつに渡す 「ええ!食べていいの?!」 面白いぐらいに喜ぶ仕草になんだか笑けてくる だってただの菓子パンだし... すごい勢いでパンを口に頬ばっておいしそうに笑っている だけどそのうち半分くらい食べたら残りを大事そうに手の平で包みだした 「食べないの?」 するとにっこり笑って言った 「うん。残りはポチにあげるんだぁ」

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