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バイトから家に帰って来るのがAM1:00過ぎ
帰ってすぐに部屋の電気もつけずにベランダに出て煙草を吸う
真っ暗で人影も見当たらない真夜中の空気はひんやりして澄んでいて、まるでこの世に自分しかいないみたいでそれがたまらなく心地よかった
だけど最近は一人+一匹だ
「お兄ちゃん!」
なぜならあれ以来、俺がベランダに出ると必ずアキラはやってきた
「またかよ...毎日毎日しつけぇな」
うんざりしながら煙を吐いてベランダの柵に頬杖をつく
最近アキラの母親は夜中に出かけていないらしく一人ほったらかしにされたこいつは物音を聞きつけて毎日のようにベランダに出てくるのだ
「あのね、今日はね...」
話し始めると止まらない会話を適当な相槌で受け流していると防火扉に遮られて半分だけアキラの腕が見える
細い腕に無数の煙草を押し付けられた跡
「ママ...早く帰ってこないかなぁ」
ぼんやりつぶやくアキラに向かって俺は言った
「お前さ、何でそんなにママがいいの?そんな傷だらけでも一緒にいたい理由ってなに?」
するとアキラは柵によじ登るようにして俺のベランダを覗いて笑った
「だってママが好きなんだもん」
まるでこっちがくだらない質問したように笑い飛ばしながら引き上げた口元は紫色に腫れ上がっていた
「あっそ」
哀れなアキラの考えていることは分からない
そんなところから早く逃げ出せばいいのにと思う
お前がいくら待ったってママはお前を置いていくだろう
だからって助けてあげる気にはならないけれど...
「お兄ちゃんお腹すいた...」
「またかよ」
舌打ちしながら部屋に戻り菓子パンを取って戻ってくる
隣に投げ込んでおきながら文句をいって...なのに毎日バイトの帰りにコンビニで菓子パンを一つ多めに買うのはなぜだろう
こんなの同情で大した意味なんてない
「おいしい、ありがとう」
アキラはそういってまた半分残して大事そうに持っていた
「ポチの散歩とかってお前がしてんの?」
「散歩はしないよ、ママが箱から出しちゃダメだっていうから」
安アパートはペット禁止だからそれも当然か...
「あのねポチがね...」
「つーかもう眠いから寝てもいい?」
また話が長そうだったから早々に話を切り上げて俺は部屋に戻ることにした
「え...う...うん」
少し寂しそうにしながら頷いてアキラは俺に短い腕をを一生懸命伸ばしてくる
「またね、お兄ちゃん」
ほんの少しだけ触れた手が思いのほか暖かくて驚いた
「じゃあな」
簡単に返事して部屋に戻った俺はまだアキラの手の感触が残った手を握りしめていた
これが最近の俺の日常
だけどこの日からしばらくアキラはベランダに現れることはなかった
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