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どこか一点を見つめるだけでぼんやりとした色のない瞳 顔を覆う伸びっぱなしの髪の毛 薄汚れたTシャツとズボンから延びる浅黒い細い腕 「なぁ、ポチ、お前しゃべれないの?」 ポチは何の声も発せず無表情で目を合わせることもしなかった 隣の押入れから思わず段ボールごと抱えて俺は部屋にポチを連れてきてしまった さすがにやばいかな...なんて思わなくもないけれどいつ帰ってくるかわからないし下手したらずっと戻らないかもしれない このままほっといてもきっとこいつは死ぬだけだろうし...むしろ人助けだと思う 感謝されてもいいくらいだ たとえ家の奴らが帰ってきたところで騒がれても問題はない 不法侵入なんかより虐待を疑って助けに入ったとか言いようがあるしそこに警察とかが介入しても言い切る自信があった 俺は嘘が得意なんだから とりあえず周りの状況が動くまで様子を見ようと思った 「つーかお前髪長すぎじゃない?」 そういってポチの前髪を掻き分ける まるで暖簾みたいになった前髪はいつから洗ってないのかゴワゴワしていた 「うっとうしいから切っていい?」 もちろん返事はなかったが俺は勝手にハサミを持ち出して前髪を挟む シャキンと音が鳴るたびに束になって髪の毛が落ちていく 「できた」 適当に切った割には意外とうまく切れて自分自身も得意な気になった ポチは今まで隠れていた部分が急に明るくなってほんの少しだけまぶしそうな目をした くっきりとした二重の大きい瞳が現れて俺を見上げる 思ったよりアキラには似てないなと思った もしかしたら片親が違うのかもしれない...こんなおかしな生活だったらもう何があっても不自然ではないだろう それとも俺はアキラの本当の顔は知らないだけなのかもしれないな だっていつもアイツの顔は腫れていたんだから 「あと、風呂ね、なんかすっごい汚いから」 俺は立ち上がってポチの腕を引っ張ってを立たせる すると立ち上がったと思ったらすぐにふらりと倒れそうになって それを受け止めてまた立たせると今度はぐにゃりと足が絡まった 「お前歩けないの?」 そういわれても腕をつかまれたままどこか上の空のポチ 仕方なく抱えて風呂場に連れて行っていつから着ているのかわからないような服を脱がせる バスタブのふちに座らせてゆっくりシャワーをかけていく 泡を大量につけてごわついた髪を洗うと泡がすぐに真っ黒になった 一体いつから風呂に入ってなかったんだろう... 何度も繰り替えしてやっと泡が白くなったところで今度は体を洗うことにした 思った通り体も洗うと垢がいっぱいで苦労した だけどその甲斐あって洗い終わったときには浅黒かった肌は真っ白に変わっていた ポチを風呂に入れて気になったこと一つあった なんでこいつにはほとんど傷がないんだろう アイツはあんなに殴られていたのに ”僕がポチを守ってあげるんだよ” アキラの声が耳に残っている気がした アキラはポチが殴られるのを庇っていたんじゃないのかな ポチの分も殴られていたからアイツには無数の傷があったんじゃないのかな ....そう思うとなんだかすごく空しくなった アイツがどうなったか今はまだ分からないけれどどっちがマシなんだろうか 殴られても殴られても部屋の中を自由に動き回れて笑ったり泣いたりできる奴と箱に閉じ込められて何の言葉も発せない代わりに殴られない奴 俺ならどっちもごめんだけれどこいつらはそれが当たり前だったんだな 泡を流しながらそんなことを考えていた 蛇口を止めて洗い終わった体をタオルで拭いてやりながら俺は柄にもなく笑顔を見せていた 「きれいになったよ?」 思わずつぶやいてしまったけれどポチは変わらず無表情だった

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