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次の日、なにやら隣がバタバタと大人数で動き回る音がした
帰ってきたのか...それとも...?
そう思って壁に耳を当てながら様子を伺っていた
ポチは相変わらず部屋の隅っこでじっと座り込んだままだ
しばらくすると部屋のインターホンが鳴った
声を上げられたり姿を見られたりするのは流石にやばいかな
とりあえず出る前に「静かにしてろよ?」と毛布を被せて玄関を開ける
中を見られたくなかったから扉を閉めて自分自身が廊下に出た
訪ねて来たのは警察を名乗るおっさんと大家のババァ
「となりの様子を聞かせてほしい」
と言われたけれど「バイトでいつもいないから付き合いもないしわからない」と簡単に答えた
それは嘘ではない
俺はアキラ以外を見たことなどなかった
すると大家のババァは急に堰を切ったように話しだす
「全くいい迷惑だよ!せっかく貸してやってんのにさぁ、虐待なんて!」
たぶん今まで散々警察にも付き合わされたのだろう
文句の1つも言わないと治りきらない様子だった
「おかげでこっちは部屋の片付けもうちが出さなきゃなんないし!!あー参ったよ!!本当に!」
大家のババァをなだめながら警察のおっさんは日頃か
ら泣き声は聞こえたのか?とかありきたりの質問をいくつか聞いてはメモしていた
おっさんの態度からおそらくアパート中の住人に同じ質問をしているようで、答えも俺とさして変わらないものしか得られなかったようだ
みんなこんな面倒な事に関わりたくなんかない
1人でもそう思わない奴がいたらとっくにアキラは保護されていたのだろうか
誰も責める気にはならない
俺もその1人だから
アキラの事は気になったけど知らないと言った手前聞けなかった
今の俺は一切何も知らないお隣さんだから
おっさんは質問を終えて帰る間際に俺に向かってこう言った
「兄ちゃんも若いのに隣がこんな部屋で災難だったな」
そしてそれっきりそいつが訪ねてくることはなかった
災難か...
言葉にすると呆気ないな
そんな簡単な言葉で終わりにできるほどアキラは価値がなかったんだろうか
...それから2日後、何気なしにつけたテレビのニュースが見慣れたアパートの外観を映し1人の少年が虐待死したことを告げた
顔写真はピースサインの笑顔が眩しい男の子
真面目な顔したアナウンサーはその写真の子をアキラと呼び母親と交際相手が逮捕された事を伝えた
「1人息子のアキラ君を...」
というフレーズが流れて他に子供がいたというような話はなかった
おそらく手続きもまともにされてない隠されていた子供のポチ
ポチは最初から存在なんてしていなかったんだ
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