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適当にネットカフェなんかで過ごして帰らなくなってから5日経ってしまった
今日も帰りたくないと思ったけれど、流石に放置しすぎだしあのまま家で死なれていても困るので渋々足をアパートに向けた
アパートの階段はボロすぎて足音がやたら響く
扉の前に立ち、憂鬱な気持ちを引きずりながら鍵を指してノブを回す
真っ暗闇の中、電気をつけるよりも早く靴を脱いで足を上げた時、なにかグニっとしたものを踏んで飛び跳ねた
その拍子によろけてバランス崩して思いっきり膝を床にぶつけてしまった
「いってぇ!」
膝に激痛が走り悶えるように手探りで電気をつける
視界が明るくなったことに安堵して俺は一体何を踏んだのかと足元を見た
「は?」
思わず声を上げたのはほかでもないユウがそこにいたからだ
玄関口で小さく丸まってどうやら寝ていたらしい...ぼんやりしながら目をこすっている
「なんで?なに?お前なにやってんの?」
今まで微動だにしなかったくせになんでここにいるんだろう...
「お前もしかして待ってたの?」
思わず問いかけてみたけれどやっぱり返事はない
そんなわけないか...
もしかしたら逃げ出したかったのかもしれないし
だけど俺はユウの頭に手を置いて撫でてやった
「よく分かんないけど動けるんだ、よかった」
置物だったユウが動けることが分かったんだから
すると今まで外れていた視線が急に俺の視線と重なる
「あれ?」
今まで一度も俺を見なかったユウと初めて目があった
「なんだ、見れるんじゃん、俺のこと分かる?」
そう言ってもう一度頭を撫でようとした時、突然ユウの瞳から大粒の涙がボロッとこぼれ落ちた
「え?」
驚く間も無くそれは次から次へと頬を伝って床へポタポタと落ちていく
「ど...どうしたんだよ!?なんで?」
あまりに突然の事にどうしていいかわからず俺はユウを抱き寄せて自分の肩に押し付けた
「泣くなよ、どうしたの?どっか痛い?」
何とか泣き止ませようと適当に背中をさすって声をかけた時、それは聞こえた
「ふっ...」
俺の肩を涙で濡らしながらユウはほんの少しだけ声を漏らした
なんだ...声出るんだ...泣けるんだ
初めて聞いたユウの声は聞き逃してしまうほどか細いものだったけれど俺は心底ほっとした
よくよく考えてみれば、ユウはペット以下の扱いを受けながら小さな箱に閉じ込められていて
泣くことも笑うことも許されてはいなかったんだ
唯一守ってくれていたアキラはもういない
知らない奴に連れてこられて放置された幼いユウが不安になるのは当然で、怖くて怖くて仕方なくて無理して玄関先まで動いたんだ
無表情なユウが心も何も感じていなかったなんてどうして思ったりしたんだろう
俺が帰ってこなくて寂しかったの?
ここでずっと待っててくれたの?
だってお前、一人なんだもんな
もうこれ以上一人は嫌だよな
「わかったからもう泣くなよ。悪かったよ。もう一人にしないから」
絶対に一人にしないから
ずっと一緒にいてあげるから
俺が守ってあげるから
俺はこのユウの涙に一気に掴まれてしまった
それからユウはこの日を境に止まっていた時計が動きだすように表情を変えていった
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