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真実の後で

ひとしきり話し終えたミツルは話し始めより一回り小さくなったように見えた 肩を震わせうなだれるように下を向いて、飲んでいたグラスを強く握りしめている 握りしめた手の甲に浮かび上がる血管の筋を見つめる椎名もかける言葉が見つからず、終始無言のままだった 長い沈黙の後...先に口を開いたのはミツルだった 「話はそれだけ」 ミツルは椎名と目を合わせることもせず自分の話に終わりを告げた 「そうか...」 椎名が最初に口にできたのはその言葉だけだった 言いたいことはたくさんある、ありすぎてどれから話していくべきなのか整理できないほどミツルの話は消化するには重すぎる けれどこのまま何も言わなければやっと話をしてくれたミツルの心がまた閉ざしてしまうような気がして頭の中を整理するより先に何か声をかけたかった ユウの過去を知った今、自分にできることはなんだろう 椎名の肩にのしかかる真実は想像よりもずっと重く切ない それでも椎名はミツルにまずはこの言葉を伝えたかった 「ミツルくん...話してくれてありがとう」 言いにくいことを話してくれたこと、そこに勇気をもってくれたこと、自分を信頼してくれたこと するとミツルは下を向けていた顔を勢いよく上げて目を見開いた 「なんっ...でありがとう...なの?」 戸惑いと驚きの視線を絡ませながらそれでいてほんの少しだけ安堵した顔で椎名を見つめる 「怒らないの...?」 そう問いかけるミツルに椎名は一度深呼吸してからはっきりと告げた 「怒っているよ」 告げられた瞬間、ミツルはサッと椎名との視線を逸らしてまた下を向いてしまう 唇を噛んで言い返せないことに悔しさをにじませているようだった 怒っている...当たり前じゃないか... ミツルはユウを連れ去り監禁し、ずっと自分の支配下に置いていた それはどんな理由にしろ許されていいはずがないのだ 「怒っているよ...でも怒りはしない」 椎名はミツルに向ってあえてこの言葉を選んだ ユウにしたことはとても許されることではなくて、きちんと罪深いということを自覚させるべきだとは分かっているが震えながら最後まで絞り出すように話をしてくれた彼を今この場できつく責め立てる気にはなれなかった 「どういう意味...?」 椎名は向かい合わせだった椅子をミツルの隣に移動させて腰かける もっと近くで話をしようと思ったからだ 肩が触れそうな距離になった時、ミツルは思わずビクッと体を震えさせた

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