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椎名は話を聞きながらその姿に昔の彼を重ね合わせていた
あの頃のミツルは年齢よりも落ち着いていて、こんな風に感情的に話したりしたことなどなかった
だけど感情のコントロールがうまくできない事をミツル自身も気づいていたのには驚いた
それをどうにもできなくて苦しんでいた事も、なぜあの頃の自分は気が付いてあげられなかったんだろうか.....
もっと積極的に話を聞いてあげられていたら、無理にでもその心を引きだすことをしていたらこんなことにはならなかったかもしれない
患者という立場からから知り合いになって友達になって親友になって...そうやってゆっくり彼と向き合えればいいとあの頃の自分は本気で思っていた
けれどそれはマニュアル通りに一方向しか見ていなかった自分の驕りが招いた結果だ
あの頃の彼は冷静で落ち着いて見せているだけでそんな余裕などなく、一分一秒を必死に生きていた
どうしてほんの少しでもミツルの変化に気づいて声をかけてあげられなかったんだろう
なぜ見逃してしまったのだろう....自分の一言でもしかしたらミツルもユウも救えたかもしれないのに
「気づいてあげられなくて、本当にごめんね」
椎名が申し訳なさそうに言うとミツルは不思議そうな顔で首を傾げた
「なんで?」
「あの頃もっとちゃんと君の話を聞けばよかった、気づいてあげればよかった、僕は医者失格だ」
人を導いていく立場でありながらいったい何をしていたんだろうと自分の無力さに呆れてしまう
椎名は思わず前髪をぐしゃぐしゃにしてしまった
すると少し落ち着きを取り戻したミツルがポツポツと話し始める
「それはちがう...と思う、先生には感謝してる」
「え?」
「ユウのケガがひどくて、どうしようって...真っ先に先生の顔が浮かんだ」
ミツルはまっすぐに椎名を見つめて続けた
「先生はいい人だから...きっとユウの事を聞いてもすぐに引き離したりしないと思った、話を聞いてくれるって思ってた」
そしてふっと笑うと哀しげな目を椎名に向ける
「そう思うなら、ユウを見つけた時に言えば良かったんだよね...そしたらきっと全部ちがったんだよね? 俺も、ユウも...」
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