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二人きりー椎名ー
久々に帰ってところで何か変わっていることがあるわけではなかった
当たり前に数か月前と変わらない部屋
急いで飛び出したように服や何やら散らかって自分の性格が表れている部屋だった
「そうだ...充電しなくちゃ」
椎名は携帯電話を取り出して散らかった部屋の中から充電器を探した
家を出るとき取り上げられて携帯を返してもらったけれど数か月の間に充電は途絶え、帰る道すがら誰かと連絡とることができなかった
充電している間に先に届いた郵便物に目を通すことにした
電気料金やガスといった公共料金とどこかのDMがほとんどで所詮、現実なんてこんなものかと苦笑する
独身の自分には帰りを待つような恋人もいなければ、いなくなった身を案じて探し回ってくれるような友人もいないのか...
家賃も含めて引き落としにしていて良かった...
そうでなければ下手をすると荷物も撤去されていたかもしれない
「あ...」
一つ一つ郵便物を確認しながらゴミ箱に入れていると勤めていたクリニックから封書が届いていた
急いで中を確認するとそこには「解雇通告書」が入っていた
予想はしていたのでさして驚きもせず一回だけ目を通してゴミ箱へ入れる
精神科医はもうできない
その資格は僕にないだろう...残念に思うのは仕事を失ったことではなく、こんな僕に良くしてくれたスタッフと、頼ってくれていた患者さんに不義理をしてしまったことだった
連絡はすることはできない
今の状況は他人に話せることではないからだ
人が生活していなくても部屋には埃はたまるものらしく、なんだかいがらっぽくて窓を開けに向かう
「窓か...あの二人、大丈夫かな」
開けた窓から久しぶりに取り込んだ空気を吸いながらふと二人の姿を思い浮かべる
ダメだ...信じるって決めたんだ
一瞬よぎった不安を部屋にこもった空気と一緒に外へと追い出した
「充電できたかな」
携帯を確認しに行くとフルではないがメールを見たり電話をかけるぐらいならできそうなほど回復していた
いつまでも電源が入らないと何かあった時に連絡がつかないと困る
これはあくまでも保険
けれどいそいそと帰ってきて一番最初にやったことは携帯を充電する事というのはそれだけでも彼を信じていないという事になるのだろうか
大丈夫
2人はうまくやっているはずだ
今は自分のやるべきことをやらないと
椎名は胸に宿る不安に気づかないフリをして作業に戻った
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