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キッチンの換気扇の下で煙草を咥えながらミツルは火をつけていないことに気が付いた 何度拭っても手にこびりついた血が消えない気がして、震えがいつまでも止まらない 倒れたユウの腕を引きずって部屋に戻してきたけれど、その身体の軽さが手に残っている 軽くて脆くて儚い愛しい俺だけの宝物 とうに限界を超えているのも分かっていたけれど自分を止めることはできなかった すればするほどもっともっと傷つけて身体じゃなくてもっと心の奥の方に爪を立てたい .ーー壊れてしまえばいいと思った 壊れてくれたら...今度こそ誰にも見せないようにして閉じ込めて自分だけのものにする もういい それでいいんだ もう自分の目を見つめて笑ってくれなくてもいい もう...俺の名前を呼んでほしいなんて夢は見ない ねぇ...ユウ...先生が戻ってくるのとお前が壊れるのはどっちが先かな 「俺ってホントにやばいよな」 ふっと笑って髪をぐしゃぐしゃにしながら頭の中で次は何をしようか...なんて考えてしまう もうどうなってもいい 分かったのは...これが俺の愛し方 俺にはこんな風にしか触れられない 咥えたままの煙草に今さらながら火をつけてゆっくりと吸い込んだ 彼はゆっくり流れて換気扇に消えていく煙を目で追いながらこれが吸い終えたらまたユウのもとに行くことを決めた **** 半月型の天井が見える 霞んで見える真っ白な世界 いつになったらこの夢は覚めてくれるのだろう...いつまで耐えれば起きることができるの? 身体が痛い...動けないや... なんでいつも目を開けるとここにいるんだろう ユウは今自分に起きていることは夢であると思っていた そう思い込むことで正気を保っていた 長い夢の中でとても怖い夢を見ているのだ...だから傷つけられることも、名前を呼ばれないことも、抱きしめてもらえないことも仕方がない すべては夢なのだから... きっともうすぐ夢から覚めて、ふかふかのベットの上で彼の腕の中で目を覚ますのだ 自分の髪をその長い指で梳くって笑いかけてくれる 「おはよう」 ギューッと抱きついてきっと泣いてしまうだろうな 怖い夢を見たのって...すごくすごく怖い夢だったのって.. 驚いたように目を大きくして「どうしたの?」って彼の声が聞こえる でも言わなくても分かってくれるの 「怖い夢をみたの?大丈夫だよ」って抱きしめてくれる その腕がどんなに強くて窒息しそうでもかまわない ”大丈夫だよ” うん...大丈夫...彼がいてくれたら大丈夫 誰もいない部屋で大の字に床に転がっているユウの手が天井に伸びていく 彼に触れたくて無意識に空を掴むように手のひらを広げて、いつのまにか笑顔になっていた ユウに見えているのは大好きな彼の顔だった .ーーいつまでそうしていたのか分からない 意識がほとんどない状態でユウはいつまでも空に向って手を伸ばしていた するとその手を握る手の感触、触るだけで分かる大好きな人の体温 グッと腕を引かれて無理やり身体を起こされた 「起きろよ」 「...ぁ」 「おはよう」 彼はユウの前にしゃがんでニッコリ笑っていた キレイで冷たい笑顔は夢がまだ覚めないことをユウに告げていた

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