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「げぇ...っほっ...うげぇ...」
食べたものが逆流して床を汚してしまった
せっかく久しぶりに食べることができたのにまた胃が空っぽになってしまう
「やっぱり強烈なんだぁ...こっちを選んで正解だったかも」
クスクス笑いながら彼は汚れたまま倒れこむユウを見下ろしていた
その手には黒いリモコンのようなものが握られている
マイオトロン...スタンガンよりも電流は大人しく見えるのに内部に効いて相手の動きをしばらく封じてしまうらしい
以前、彼が椎名に使ってみた時、大の大人にもかかわらず倒れて動けなくなった
もともとは護身用
小さなユウの身体を考えても使うつもりはなかったけれど、とりあえず何かあったら...そんな風におもって処分をためらっていたものだった
「動ける?一瞬だったからまだ平気でしょ?」
ミツルはぐったりと倒れるユウを起き上がらせて目の前にコインをちらつかせた
「ぁぅ...」
顔を上げることすら一人ではできないほどその威力は絶大だった
今の衝撃がなんだったのかユウには分からない
ただものすごい体を突き抜ける衝撃と身体を襲う倦怠感
動けない...力が入らない...
心臓がドキドキと早打ちをしながら警告を鳴らす
本能が危険だと伝えていた...次はきっと息が止まってしまう
「さぁ...次はどっちだ?」
一段と声を高らかにした彼の手の上でコインがぐるぐると隠れては移動していく
その速さも動きもさっきまでとは比べ物にならないほどで回らない頭が邪魔をして目で追うことすら難しかった
目が回る...ぐるぐるぐるぐる....気持ち悪くて吐いちゃいそう
「はい、選んで?」
できない...選べない...わかんない...わかんないよぉ...
涙を浮かべながら彼を見上げ許しを請うように縋りつく
「ひっ...ぅぅ」
「泣いてもダーメ、ほら早く」
それは逃れられない選択、確実に堕ちていく恐怖への入り口
ユウが選ばなければこのゲームに終わりは来ない
このままだとしびれを切らした彼が選ぶ間もなくユウに電撃を使うだろう
そしてこの二分の一の確立に勝てたとしても、次の負けがくるまで何度だってミツルはやる
どのみちユウにはあの衝撃から逃れる道は用意されていないのだ
「選んで?」
どっちかなんてどうでも良かった...もういっそのこと今すぐ一思いにシテくれた方がいいような気がした
ユウは彼の拳に力なく手を添えた
ミツルがゆっくり開いた手の平の中には案の定、コインの姿はなかった
「....」
「残念、じゃぁ、またお仕置きだね」
ふふっと笑って当たり前のようにミツルはユウの腹部にあの黒い器具を押し当てた
電流が流れる金属部がチクリと素肌に刺さる
「はぁ...っ」
ユウが息を吸い込むのと同時にミツルはスイッチを引き上げた
「ぎゃぁぁぁぁぁああああ!!」
バチバチという音と耳をつんざくようなユウの叫び声
吹っ飛ぶようにして倒れこんだユウの足元から水たまりが広がっていく
「あーぁ、二回が限度か」
失神したユウを見下ろしながらつまらなそうに舌打ちをして握ったマイオトロンをポケットにしまい込む
するとポケットの中の何かにカツンと当たって邪魔をされた
中を弄って掴み上げるとそれはさっきまで遊んでいた銀色のコイン
ミツルはそれを指でつまんで天井に翳して眺める
目を細めて眩しそうにしながらふっと笑って呟いた
「本当にバカだな」
確率は二分の一だったコインの行方
ユウがミツルの手の動きについて来られないことは容易に想像できた
だからユウがキョロキョロと働かない頭を必死に動かしている間に彼はその目を盗んでコインをポケットにしまっていた
どちらを選んでも外れしかなかった
最初から確率なんて存在していなかったのだ
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