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仕事上、やめたくてもやめられないと悩み苦しんできた人々はたくさん見てきた 薬物、アルコール、自傷、ギャンブル...そして暴力 依存してしまう理由や背景は人それぞれ違うけれど僕らは向かい合った相手に何が必要かどう手助けをするべきかをきちんと見極めなければならない けれどいざ治療を始めると、症状が改善すると通うのをやめてしまったり、治療途中で自分自身と向き合うのを恐れて自己完結してしまう人間は多い ...その結果気づいた時にはもう手遅れになってしまうことは少なからずある 「それ...久しぶりに見たな」 「あ?あぁ...今じゃすっかり日焼けに消えかけてるけどよ」 それは涼介の過去の傷跡 椎名が精神科医を目指すきっかけになったといっても過言ではない古い話 二人の中に昔の記憶が煙のように立ち上がりかけた矢先、涼介は頭を振ってそれを遮る 「まぁ...そうとは限らないけど。用心することに越したことないだろ?お前だってそういうの嫌ってほど見てきたろ?」 「そうだけど...あの子はそんな...」 「はぁ!!また始まった...お前はぁ!すぐそうやって感情移入するっ...」 涼介は呆れたように頭を抱えてため息をついた 「お前のそういうところがバカだっていってんの!」 涼介の言う通り椎名には感情に引きずられるところがあった それは自分でも自覚しているがこうまではっきり言われると反論もしたくなる 「涼介だってさぁっ...」 椎名が言いかけた時、涼介は手の平で制止して立ち上がった 「時間切れ。悪いけど仕事もどるわ」 多忙な涼介はこのためだけに時間を割いて来てくれていた 椎名は申訳なさとその多忙ぶりを心配するように眉を下げて見上げる 「悪かったな。忙しいのに」 「ははっ!別に...お前のためならどこでも飛んできてやるよ」 涼介は白い歯を見せて来た時と同じように大股で帰っていった 一人残された椎名は背もたれにもたれてぼんやりと一点を見つめていた 自分がいない間の二人がどうしているかなんて考えてなかった ...考える必要なんてないと思ってしまっていた それは”信じている”からなのか、自分の考えが”甘い”からなのか... 椎名は立ち上がるとレジに向かって歩き出す 会計をお願いするとマスターは「もう支払われている」と告げてきた 涼介が知らぬ間に自分の分も済ませていたことを知り、そつなくこなす彼に感心しながら自分の鈍感さをまた思い知った 店を出ると心地よい風が頬を掠める 穏やかな日差しは椎名の悩んでいた重苦しい気持ちを優しく包んでくれるような気がした ーー家までの帰り道、椎名は母親と手をつないだ小さな男の子とすれ違った 「もぉ、いい加減にしなさい!」 いったい何があったのか母親は怒りながら幼い子供の手を引きずって、その子は目を真っ赤にしながらむくれていた 「もう、しょうがないわね!」 怒った母親はその子を抱き上げるとセカセカと椎名の横を通り過ぎていく 何気なしに振り返った彼は母親の肩越しでこっそり嬉しそうにしている男の子の顔を見てはっとした 「ユウくん...」 涼介の言葉が頭の中を巡る その親子を見送った椎名は無意識にポケットの携帯を握りしめていた

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