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ーー車から流れる景色を眺めながら目印になるものを必死に探していた
赤い屋根のおうち、大きな絵が描いてある看板、キラキラ光るお店
その角を曲がってずっとずーっと行くと大きなマンションがある
窓にへばりつくようにする仕草はまるであの部屋にいた頃と同じだ
「ユウくん、危ないからちゃんと座って?」
椎名にたしなめられるたびにユウはシートに深く座りこんだ
もぞもぞと膝の上で手を動かしては落ち着きのないユウに椎名は思わず笑いだす
「そんなに焦らなくても、ミツルくんは逃げないよ」
それでもユウの目線は窓の外を気にして行ったり来たりを繰り替えす
一つのことに興味があるとそれしか見えなくなるのも昔からの癖だ
「ユウくん、今日は何して遊ぶのかな?」
椎名は少しでも他へ興味を持たせようと話しかける
「....う?えっとね....えっとね....おはなしっ...する」
「お話?なんのお話するの?」
「うん....えっと、うさぎさんっはね...お耳がながいのっ...しってる?」
まん丸の目でまるで”すごいでしょう?”と言わんばかりのユウの話に椎名はあわせて返事をする
「すごいねぇ!!僕知らなかったなぁっ、ユウくんは物知りだね」
「ほんとぉ?えっとね....あとねっ...ぞうさんはお鼻がながいんだよぉ?」
「そうなのっ!?すごいなぁっ!ミツルくんにも教えてあげないとね」
褒めると嬉しそうにきゃっきゃっと声をあげた
「あっ!!あれだぁっ!」
目的のマンションが小さく見え始めるとその声はひときわ大きく弾む
「はい、はい、もうちょっとね」
クスクスと笑うと椎名はほんの少しだけアクセルを踏み込んで目的地へと急いだ
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