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、
知らない名前、知らない話
自分以外と過ごす間、ユウは一体どんな風に他人と接するのだろう
どんな声で相手の名を呼び、どんな風に笑顔を見せて、どんなことに喜んでいるのだろう
時には、誰かがユウのその真っ白な肌に触れたり、その細い指を絡ませたりするのだろうか
「その話、聞きたくないんだけど」
そう言ったミツルの顔を見上げたユウは一瞬にして青ざめた
「あっ...あのっ...」
目をきょときょとさせながら不安げに狼狽える様は相変わらずで、ミツルがその場を立ち上がるとユウは大げさにビクッと身体を跳ねさせた
ーーあれから3年の間、ミツルはもちろんユウに暴力など振るってはいない
けれど、こうやって明らに怯える態度を見せられると考える
もう3年ではなく、まだ3年しか経っていないのだと
「みぃく...」
自分から離れてしまうミツルの後を慌てて追いかけるユウの姿はいつまでたっても子犬のようだ
キッチンの換気扇の下で煙草を咥えるミツルを少し離れた所からひたすら見つめて振り向いてくれるのを待つ
けれどこの3年で変わったことが一つある
「ユウ、おいで」
煙草で一息つくとミツルはすぐそこでたたずむユウを呼びよせる
「あぅ....」
おずおずと近づくユウの引っ張って力強く抱きしめると耳元に唇を寄せて言った
「さっきの、ごめん」
「う...?」
「ユウは悪くないよ、怒ってない...話の続き聞かせて?」
腕の中から見上げるユウの顔がぱぁっと明るくなるのを見て、ミツルは胸をホッとさせた
離れいる間に彼が学んだことは自分勝手な嫉妬や欲望を隠せば、ユウを守っていけることだった
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