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近くて遠い距離
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「ユウくん、帰るよー、起きて?」
「ん...」
「いいよ、起こさないで?そのまま運ぶから」
夜になり、椎名が迎えに来た頃にはユウは睡魔に負けて寝てしまっていた
ミツルはユウを抱えると椎名と共に部屋を出て、駐車場へと向かう
ユウはミツルに抱っこされた状態でスヤスヤと眠りの中で、ちょっとやそっとでは起きそうもない
「また怒られちゃうな」
「なに?」
椎名はミツルの胸で眠るユウの髪をそっと一撫でして笑う
「寝てたら絶対起こしてねって言われてるんだけど...」
遅くまで起きていられないユウはいつも迎えに来ると寝てしまって、ミツルに別れの挨拶ができなかったと次の日に嘆くのだ
「いいよ、泣き喚くよりマシだから」
起きていれば帰りたくないと泣きだすから、どうせなら寝ている間に連れていってもらいたい
ユウの涙はできるだけ見たくないーー
「ユウはいい子にしてる?先生の事困らせたりしたない?」
まるで宝物のようにユウを抱えながらミツルが椎名に不安そうな顔を向ける
「まさかっ!とーってもいい子だよっ!!」
「そう...」
「いい子すぎるくらい、もっとワガママ言ってくれてもいいのに」
椎名と生活を始めたユウは最初こそ泣いていたが今はもうすっかり落ち着いている
とにかく新しい事に慣れようと一生懸命で、駄々をこねる事もない
ワガママ一つ言わずにいるユウを見ていると、もっと甘えて欲しいと思うほどだった
「2人とも落ち着いてるし、そろそろもっと会う時間を増やしてもいいんじゃないかな」
それは椎名から幸せな次の段階への提案だった
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