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その日はなんの言葉も交わすことなくただひたすら抱き合ってお互いの存在を確かめ合った 胸に抱いたぬくもりをこのまま離したくないーーただそれだけだった けれど最初に面会時間はたったの一時間 終わりはあっという間に訪れる 「残念だけど今日はもうお終いだね」 ずっとそばで何も言わずに見守ってくれていた椎名の声が合図だった 「ユウ、もう終わりだって...また今度ね?」 ”また今度” それはいつになるのか、本当に来るのかはミツル自身も分からない 「う...?ぅ...?」 けれどこの久しぶりの再会はユウの中で大きな誤解を生んでしまった ユウにとってこの一年は我慢に我慢を重ねてきたのだ やっとミツルと会う事ができて、もうこれからは一緒に入られるものだと思ってしまった 離れて立ち上がるミツルにユウは慌てるように腕をきつく巻き付けた 「やっ...やぁっ!!」 「ごめんな、ユウ、ダメなんだよ」 「ユウくん、また会えるから...ね?」 真っ青になって取り乱すユウを2人がかりで諭していく 「やーー!!」 顔をぶんぶんと横に振ってテコでも離れようとしないユウにミツルはあの日の姿を重ねた 別れる決意をしたあの日 泣いて嫌がるユウに投げかけた言葉を 力任せに掴み上げた細く折れてしまいそうな首の感触を 涙に溢れた絶望の瞳を 「先生、ちょっとユウと2人っきりにさせて」 「ミツルくん、それはっ....」 「5分でいいから、お願い」 椎名としては久々の再会でいきなり2人っきりにするのは避けたかった けれどいつになく真剣なミツルのまなざしに迷った末、それを了承することにした 「5分だけだよ、危険なことはしないって信じるからね」 少しの不安を胸に椎名は二人を残して部屋をあとにした

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