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"わがままってなぁに?"
不安そうに訴えるユウの目元をミツルは親指で優しくなぞる
ユウがワガママを知らないのは当然だ
ミツルの言う事だけを聞いてその通りに生きてきた
何かを望む事も考える事も許されなかったユウがワガママなど言えるはずもない
けれどもし今、ユウが"離れたくない"と言えばそれに答えることはできない
その言葉は嬉しいはずなのに叶えてやれない事が苦しい
もう泣かないでほしかったから
期待させて待たせて傷つけたくなかったから
だからミツルはユウにそれをワガママだと言い聞かせた
「ね?約束しよ?」
小指を繋ごうと触れたユウの手が右手だと気付いた時、ミツルは動きを止めた
曲がらなくなった右手の小指に目を伏せて、改めて左手を握り返す
いたるところに残る自分の犯した罪の跡を平気な顔して眺めていられるほど冷静ではいられなかった
ーーーそれからしばらくして椎名からユウはあれ以来、滅多に泣かなくなったと聞かされた
その時、ようやくミツルは気が付いたのだ
あの約束はユウを縛り付けてしまったのだと....
小指を繋いで交わす約束はユウにとって特別なものだから
それは決して違えることなどできない”約束”という名の支配
やっと会えたユウにミツルが与えたものは、幸福でも安堵でもなく
一生解くことのできない”見えない鎖”だ
なぜあの時、ユウに「迎えにいくから」と言ってやらなかったんだろう
「待ってて」と一言でもいってあげる事ができたなら
別れた時から抱えたユウの不安を少しでも楽にさせてあげる事ができたかもしれないのに...
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