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見えない鎖 ユウ
「.....」
ぼんやり目を覚ますと目の前にはいつもと変わらない青空が広がっている
空を眺めるのが大好きなユウのために椎名が壁紙を空柄にしたからだ
枕元には涼介からもらったたくさんのぬいぐるみ
けれどユウが抱いて眠るのはいつものようにペンギンだった
「みぃくん....」
いるはずもない彼の名前を呼んで、実感する
”あぁ、またここに帰ってきちゃった”
ニセモノの空にニセモノの自分の部屋
本当の自分は真っ白な部屋で彼のそばで小さな四角い窓から見える空を眺めているはずなのに、ここには彼もいければ、部屋は白くもないし、部屋の窓は大きいのだ
それが当たり前の自由だということをユウは理解ができない
本当はなぜ彼と離れて暮らさなければいけないのかも分からない
ただ彼から「そうしろ」と言われたからにすぎない生活は時々、どうしようもなく胸が苦しくなる
きゅうっと痛む胸を押さえてユウは寝がえりをうってペンギンにしがみ付いた
「ここ....きらい」
思わず口からでた言葉にユウは慌てるように言い直す
「ちがう...ちがう...だめだめ」
誰に聞かれるわけでもないのに必死になって弁明しているようだった
ワガママは言わないーーそれは彼との大事な約束なのだ
「いいこ....」
彼はいい子のユウが好きだから
ワガママは悪い子が言うことだから
せんせぇの言うことをちゃんと聞いて、なんでもできるようにならなくちゃ
たくさんいい子になったらきっと連れて行ってくれる
みぃくんがまた今度はこの大きな箱から出してくれる
「ユウくん、起きてる?」
椎名の声にユウはベットから飛び降りてドアを開けた
「昨日はごめんね?寝てたから起こせなかったの」
いつもと同じようにニコニコ顔の椎名にユウはいつもと変わらない笑顔で答える
「へいきっ!またバッテンつけるのっ」
カレンダーの×印が7個貯まるまでまた一週間ユウは同じことを繰り返すのだ
「そうだね、じゃあ、朝の支度しよっか」
「はぁいっ!」
せんせぇを困らせてはいけないの
言う通りにするの
それは大好きな彼がしてくれた唯一の約束だから
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