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クンクンと鼻を鳴らしながら飼い主とは逆の方へ向かおうとする犬
「もうっ!いい加減にしなさいっ!!」
「キューン...」
飼い主に怒られると不満げな声をもらして引きずられていく
ユウは微動だにせずその姿が見えなくなるまで見つめていた
まるで金縛りにあったように身体が動かなかった
赤い首輪にポチ.....
その名を叫ばれた時、思わず自分のことだと顔を上げてしまった
あの名前は嫌い
あの名前で呼ばれると胸が苦しくなって、痛くなって、悲しくなる
「ちがうもん....ユウだもん」
自分に言い聞かせるように正しい名前を確認する
もうあの名前で呼ばれることはない
だから忘れていいはずなのに....記憶から消せないのはなぜ?
大事なことは一生懸命覚えてもすぐに忘れてしまうのに.....
「...っ」
急に不安が膨らんだユウは立ちがって来た道を振り返る
この道は椎名と歩いたことがない道だ
一人でその道を引き返し迷わずにオフィスまでたどり着くことなどユウにはできそうにない
それにマナトはミツルをここに呼んでくれるといったのだ
いい子でここで待っていろと...動いてしまってはミツルに会えないどころか約束を破ることになってしまう
けれど、自分のことなど気にも留めず目の前を通り過ぎていく人々を眺めていると、まるで自分が存在していないような気になるのだ
”誰の目にも留まらない、ちっぽけで存在する価値のない人間”
それが自分だという事はもうずっとずっと前から分かっているから
だからせめて大好きな人には必要だと思われていたいのに....
心細さがピークに達してユウの目に涙が溜まっていく
「みぃくん....」
大粒の涙が今にも零れそうになった瞬間、頭の上にぽつりと雫が落ちた
「....?」
上を見上げるとぽつり、ぽつりとユウの顔を目がけて水の雫が落ちてくる
「あめっ....」
ユウがその存在に気づくと同時に、雨足は勢いをつけて降り出した
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