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「あぁ、降ってきましたね」
「あら、本当だわ」
黒塗りのセダンの中で専属の運転手と秘書の千春の会話を聞きながら涼介は後部座席に深くもたれてため息をついていた
「もう一歩遅かったら降られてたな、助かった」
涼介と千春は今回、夏に向けて行われる外食イベントの一つに関わっていたものの、先方のミスが発覚して急きょそちらへ行っていた
内容的には大したこともなく、そのまま契約は継続し事なきを得たがせっかく来たのだからと野外イベントスペースも見て回ってきたのだ
もしあのまま、外に居続けたら二人してずぶぬれになっていたのは間違いない
「あれだけ晴れてたのに....バケツをひっくり返したみたいね」
窓ガラスに吹きつける雨を見ながら千春は先方との資料に目を通している
「さっきの***さんて方、結構いいものを持ってるんじゃないですか?」
千春はひと段落することもなく涼介に話を持ちかける
「うちに来ていただけたらもっと発揮できると思うんだけど...」
クスリと笑って流し目で涼介を見つめるその真意は引き抜きの話だ
千春は秘書業務だけに留まらす人事、経理その他もろもろのこともほとんどをこなしてしまうほどの仕事人間だ
本当の会社のボスはひょっとすると千春なのではないかとまことしやかにささやかれていたりするぐらいだ
「お前なぁ、一息くらいつかせろ、鉄女!!」
「情けないっ...たかが一件でしょ?帰ったら***物産の件がまだ片付いてないですからねっ」
涼介はせめて移動の時ぐらい仕事のことを忘れさせてくれとばかりにぷいっと顔を背けた
「この雨ですからね、少し渋滞してますよ」
運転手が穏やかな口調で進まない車の理由を語る
確かにひどい大雨だ
これだとオフィスに戻るのはもう少し時間がかかりそうだ
「なんならこのまま動かなくなったほうが俺的にはラッキー...」
ははっと笑って何気なく外を眺める涼介が急に目を見開いて乗り出した
「おいっ!!止めろっ!!」
「はいっ?」
「いいから止めろっ!!」
急に荒々しく怒鳴る涼介に運転手はわけも分からず、言われるがまま急ブレーキを踏んだ
「きゃあっ!」
バランスを崩した千春が運転席にしがみ付き、後ろからは急な停車にけたたましいクラクションが鳴り響く
「どうなさったんですっ!?----っちょっと、社長っ!!社長ー!!」
涼介は降りしきる大雨の中、呼び止める声も聞かずに飛び出していった
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