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嘘つきとワガママ

未だ降り続ける雨は勢いを増すばかりで、傘もささず飛び出した涼介もあっという間にその餌食となった ーー素肌に張り付くシャツが気持ち悪くて早く帰って着替えたい 涼介はそう思うのにユウは頑なにその場を動こうとせず、一向に事態は変わらない 「来ないんだってっ!!な!?帰ろうっ!?」 「やっ!!くるもんっ...まってろって...マナくんいった!!」 ユウの目元が濡れているのは涙なのか雨のせいなのか分からない 涼介は両手でそれを拭うと頬が氷のように冷たくなっていた 「っ...お前何時間ここにいたんだよ....」 マナトが何を吹き込んだのかは知らないがミツルの事となるとユウは頑固な面を見せる ひたすらにミツルに会えると思い込んでこの雨の中待っていたのかと思うと涼介もさすがに胸が痛んだ 「まあっ!!ユウくんじゃないっ!!どうしたのっ!!」 後から追ってきた千春がユウの姿を見るなり青ざめて駆け寄ってくる 「千春、マサキに連絡しろ、すぐ帰るから」 頑固だからといってこのままにしておくわけにはいかないと涼介は嫌がるユウを無理やり担ぎ上げて車に急いだ 「やぁっ!りょおくんっ...りょおっ.....」 「いい加減にしろっ!!」 涼介は肩の上で嫌だ嫌だと抵抗するユウを大声で一喝した するとユウは今までが嘘のようにしゅんと大人しくなった ユウは今まで涼介に怒られたことなど一度もなく、ましてや怒鳴られるなんて思ってもみなかったのだ 涼介は路肩に待たせておいた車にようやくユウを押しこむと慌ただしく車を発進させた 「こんなに冷たくなって...早く着替えないと」 千春はユウの手を握り、冷えないようにとずっと身体を擦っている 車はどんどんスピードを上げて今いた場所から遠ざかり、やっと見慣れた景色に変わりだす けれど未だ真実を知らないユウは帰らないといけない理由も分からず、ずっと口を尖らせていた どうして...? かえりたくないのに....みぃくんがくるのに.... するとずっと険しい顔つきで窓を睨んでいた涼介がやっと口を開いた 「ユウ」 「...?」 呼ばれる声にゆっくりと顔を上げるユウの頭に涼介の大きな手が触れる 「マサキがめちゃくちゃ心配してるぞ?きっと」 そう言って目元を緩ませながら何度となく頭を優しく撫で、「怒鳴ってごめんな」と付け加えた 涼介のその優しい微笑み、心に染みるような低い声にユウは思わず泣きそうになった 胸がキュッと苦しくなって....そしてようやく気が付いた 自分はまた間違ってしまったんだと... こんなことはしてはいけなかったのだ 勝手に外に出る事も、彼に会うことも、何一つしてはいけなかった それに気付いた途端、ユウは今まで寒さなど感じなかった身体が肩から震えていくのを感じた

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