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いつものクラブのVIPルーム
お決まりのメンバーとくだらない話で盛り上がり、慣れない酒を煽る
「--でもびっくりしたな、あんなところでマナトに会うなんて」
樹がグラスを片手にマナトに近づく
他のみんなはもう既に出来上がっていて大声をあげながらバカ騒ぎしている中、マナトは樹と顔を近づけあって酒を酌み交わしていた
「うん!!俺も!おかげでバカの相手しなくて済んだ」
「バカ?あぁ、一緒にいた子?なんかちっちゃくてかわいい子だったな、小学生?」
「だろっ!?そう思うよね!でもあれで18なんだって!!信じらんないよね」
マナトは興奮するように樹に向かって日頃思っていた疑問をぶちまけた
椎名も涼介もユウのことは詳しく教えてくれないし、当の本人はいくら聞いても的を得ない
本当は知りたくて、気になって仕方ない”ユウ”という謎だらけの奴の真実を、あることないこと想像を膨らませながら樹に語る
「なんにも分かんないんだよ、まるで幼稚園児みたい」
「ふーん、変わってんね、てゆーかどういう知り合い?」
「えっと....」
そうしてマナトは樹に今の状態を掻い摘んで説明した
ひょんなことから助けてもらった椎名の話、行くところがない自分を置いてくれる涼介の話
良くも悪くも自分を子供扱いされている事
「今、狙ってる男がさ、超金持ちなんだ!会社の社長ででっかいマンションの最上階なんかに住んでてさ」
「へぇ、すごいじゃん」
目を丸くして驚く樹にマナトはまるで自分が褒められたかのように得意げな顔を見せる
そんな中ふと樹が陰った表情をしたのをマナトは見逃さなかった
「どうしたの?」
「いや...実はこの間マナトが男と別れたって聞いてから心配してたんだよ」
「ほ...ホント?」
「俺が紹介した手前さ、悪いことしたなって...でも良かった、いい人達に出会ったみたいだな」
申し訳なさそうに笑う樹にマナトはつい先日まで自分に恋人がいた事を思い出した
手首まで切って大騒ぎしたというのにいろんなことがありすぎてすっかり忘れてしまっていた
ーーそうだ...その人も樹さんに紹介してもらったんだっけ
最初は客として紹介されて、何度か会ううちに俺を気に入ってくれて恋人として迎えてくれた
別れてしまったものの、悪い人ではなかった気がする
一緒に遊ぶ仲間も自由に出入りできる店も、恋人でさえも、全部彼が紹介してくれた
樹さんは、クソみたいな家を飛び出してたった1人、途方にくれた俺に生きる術を教えてくれたんだ
「俺、樹さんがいなかったら死んでたかも」
思わずぽつりと呟いたマナトに樹はカラッと笑っていった
「なに言ってんだよ、俺ら友達だろ?」
”友達”という言葉がマナトの心に直接語りかけてくる
--そうだ
俺たちは友達だ
友達はこうやって一緒に笑いあったり、悩みを相談したりできて、なにより、自分の事を分かってくれる人のことだ
間違ってもあんな子供のような...ユウみたいな奴の事を友達とは呼ばないんだ
「遅くなったな、そろそろ相手も帰ってくるんじゃないか?」
「えー、まだいいじゃん、どうせ帰ってこないよ」
「ばぁか!それでもしおらしく待ってるのがいいんだよ!」
帰るのを渋るマナトを樹は軽く笑ってあしらった
まだまだ聞いてほしいこともあるし、もっと教えてほしいこともあったけれど確かに樹の言うことももっともだ
帰り支度をしながらマナトは樹のその気遣いが嬉しくてやっぱり話をして良かったな...と心の底から思った
「そっか...分かった、じゃあ!またね!」
マナトは樹に手を振ると飛び跳ねるように出口に駆けていく
その姿はあっという間に暗闇の中に消えていった
騒がしい店内で一人になった樹はグラスを飲み乾すと自分の手の平を見つめる
社長、金持ち....先ほどマナトに聞かされた相手の好条件を指折り数えながら樹はこめかみをかく
「あれー、樹さん、マナト帰っちゃったの?」
他の仲間がべろべろに酔いながら樹の肩にしなだれかかる
「お前酔いすぎ」
「あれぇ?樹さんなんかいいことあったんすか?なんか嬉しそぉ」
舌足らずな声で樹を指差し首を傾げる
すると樹は口元を見られないように片手で覆った
けれどクツクツと込み上げる笑いはどうやっても隠しきれない
「なんか面白そうだなって思って....」
笑いながらカウンターに置いたグラスの氷がカランと音を響かせた
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