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その日涼介は久しぶりにマンションに戻っていた
とりあえず濡れたままでは困るので玄関で無造作にスーツを脱ぎ棄ててシャワーへ直行する
確かこれはオーダーメイドで作った自分だけのスーツ
色から生地からこだわって結構な値段で買ったはずの高級スーツもクリーニングに出す手間を考えたら面倒くさくて、ゴミ袋行きに決定だ
こだわったわりには所詮こんなもの...物なんてまた買えばいい
そんなことよりあの後ユウは大丈夫だったろうか
あいつは身体も小さいし、うまく自分の事を伝えられないから風邪でもひいたら大変だ
適当にシャワーを浴びるとラフな格好に着替えて涼介は部屋の中を見渡した
どうやらマナトはまだ帰っていないらしい
久しぶりの自宅だというのにまるで他人の家のような気がするのは決して自由に使わせているせいではない
自分にとって愛着がないからだ
どんなにスーツだろうとマンションだろうと涼介にとってはたいした価値もないのだ
彼が最も優先するものは仕事、それから仲間
それ以外はゴミ同然だ
だから今日、涼介は大雨の中でユウを見つけた時、息が止まるかと思った
凍えるようにして、不安げな顔で何かを必死に探している姿に自分が濡れる事など関係なく飛び出していた
「あのガキ」
思い出しても胸糞悪くなる
マナトのした事は辛い過去から必死に立ち直ろうと今を生きるユウに対しての最大の侮辱だ
ーー俺は大事な仲間に何かあれば誰であろうとも容赦はしない
仲間に対しての蔑みはそのまま俺に向けてのものと同じだ
「どこほっつき歩いてんだよっ!」
誰もいない部屋に涼介の声が響く
本当はマナトなどのために時間を割くなんてばからしくて仕方ない
だけど今日はどうしても一言、言ってやらないと気が済まないのだ
涼介はロックグラスにウィスキーを注ぐと一気に飲み干してため息をつく
いつ帰ってくるかも分からないマナトを待つには酒でも飲まなければやってられない
...そもそも帰ってくるのかどうか
マナトに部屋の出入りを許可したものの、どうしているかについては全く関与していなかった
あいつがどれだけここを使っているのかなんて興味がない
例えば何かを盗んでいたとしてもきっと気づくことすらできないだろう
不用心だろうが無頓着だろうがここには自分にとって失いたくないものなど置いていない
涼介はマナトが戻るまでとりあえず仕事でもしているかと持ち帰った資料を取り出すとそれに紛れて出来てたもの
それは先ほど千春に渡されたマナトの調査表だった
正直あのガキがどんな奴だろうと関係ない
何かあれば出入り禁止にすればいいし、第一連れてきたのは俺ではなくマサキなのだ
それでも会社思っていろいろ手を尽くしてくれた千春に報いるために気乗りしないまま、それを手に取る
「はぁ....」
まるで覗きでもしている気分だったが仕方なく涼介はページを捲った
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