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大慌てで椎名は涼介のマンションへと急いだ
「マナトくんはっ?!大丈夫?!」
「あぁ、なんとかな」
出迎えた涼介のシャツは血だらけになっていて、彼なりに必死にマナトの手当てを試みたのが分かる
げっそりした顔は椎名が来たことで少しだけ安心したように緩くなった
促されるままリビングへ向かうとキッチンの床には血を拭きとった跡が残っていてどうやら現場はここらしい
「ちょっと言いあっちまって....部屋から戻ってきたらぶっ倒れてた」
はぁっ....と疲れたように髪をかき上げる涼介はまるで自分のせいだといわんばかりに肩を落としていた
リビングに置かれたソファには青を通り越して真っ白な顔色を浮かべたマナトがぐったりと横になっている
その左手には何重にもタオルが巻いてあり、血を止めようと奮闘した涼介の姿が目に浮かぶ
「俺、焦っちまって....大丈夫か!?やっぱり病院連れてくか!?」
椎名が傷痕を確認している間、涼介は後ろからずっと不安そうな目を向けて、そわそわとその結果を待っていた
傷口の深さは命にかかわるほどではなかったが、おそらく元々治りかけていた上から傷をつけたせいで想像よりも出血をしたのだろう
椎名ならさほど驚くこともなかったが涼介のように医学知識のないものが見たら驚くのは無理もない
「大丈夫だよ、大したことない。大げさにする方が返ってマナトくん傷つくと思うんだ」
手早く涼介が用意した救急箱セットで処置をすると、椎名はマナトに呼びかけた
「マナトくんっ!?マナトくん!?分かる!?」
椎名が軽く頬を叩くとマナトの閉じていた瞼がぼんやり開いて反応を見せる
その目がゆっくりと椎名の姿を捉えるとマナトの靄のかかった意識がゆっくりと戻ってきた
「あ....れ...?せんせ....?」
自分を覗きこむようにして見つめる椎名にマナトは状況が掴めず瞬きを繰りかえす
なんで...?俺...どうしたんだっけ.....?
なんだかひどくぼんやりした頭を押さえ、ゆっくりと上半身を起こすと左手の重みに気が付いて首を傾けた
するとマナトはその手首に巻かれた包帯を見るなり慌て出して立ち上がった
「ちょっ....ちょっと!急に立ち上がっちゃダメだよ」
「帰るっ...から」
ふらつく足取りで椎名を押しのけ、マナトは逃げるように部屋から出ようとする
「帰るってどこへ?!そんな怪我のまま帰せるわけないでしょう?!」
「平気だから....こんなのいつもと一緒だから」
椎名の心配に耳を貸そうともせず、マナトはただひたすらここから出て行くことだけを望んだ
もう放っておいてほしかった
いくら優しくされてもここには居場所なんてないのだから
すると突然マナトはものすごい力で襟首を掴まれて引きずり戻された
「いいかんげにしろよ!!このガキがっ!!」
怒鳴り声と共に身体が浮いてマナトはまたソファに逆戻りになる
「フラフラのくせに放っておけとか、どんだけ構ってなんだよっ!!てめぇはぁあ!!!」
怪我人でも容赦のない涼介の声はビリビリと響いてマナトを震え上がらせた
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