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椎名はマナトの横に腰を降ろすとそっと彼の手を握った 「なんだか最初に出会った時みたいだね?覚えてる?」 「.....」 何も答えないマナトに椎名はクスリと笑って続けていく 「あの日、いつもユウくんに買ってあったプリンを忘れちゃってさぁ、大慌てで夜中にこっそり抜けだしてコンビニに走ったんだよね」 ほんの数か月前のことを懐かしそうに記憶を辿りながら椎名はマナトに語っていく 何も答えずにいながらもマナトの頭の中でも同じようにあの日の光景が思い出されていた 傷つき、途方に暮れていた自分を見ず知らずの人が助けてくれた そんな経験は簡単に忘れられるものでもない 「あの時のマナトくん、すっごく顔色悪いし、よく見たら血だらけだし....思わず声かけちゃったんだよね」 「.....」 「なんだか辛そうで見ててこっちが苦しくなるくらいだった」 椎名の記憶にいるマナトは真っ青な顔でまるでこの世の終わりのように小さく震えている幼い少年だ 「どうしたのかな、何か力になりたいな、話聞いてあげたいなって.....でも話しかけたら触るなって!!すっごい怒るし、びっくりしちゃった」 「....っ」 マナトは椎名に対してとった失礼な態度を思い出し、恥ずかしそうに俯いた 無条件で優しくされることにも、他人が見せる親切心も慣れていないから素直に受け取れなかった 「時間があれば一緒に病院だって連れて行ってあげれたんだけどね、家にはユウくん一人だからそうも行かなくてさ」 その時、椎名の話にかぶせるように急にマナトが口を開いた 「ユウは今、どうしてんの.....?」 「ユウくん?寝てるはずだよ、起きないようにこっそり出てきたから」 「留守番できないの?一人で」 マナトはユウを嘲笑うように棘のある言い方をする やはりマナトはユウのことになると過剰に反応して敵意を向ける それは椎名の前でも変わらなかった 「うーん...そうだねぇ.....できないわけじゃないけど...させたくないかなあ、できるだけ1人ぼっちだって思わせたくないんだ」 迷いながら答える椎名にマナトは顔を歪めて吐き捨てた 「過保護」 「うん?」 「先生は過保護だ!!だからあいつはいつまでたっても何にもできなくて、バカのままなんだよ」 マナトは憎々しげに椎名を睨みつける 「過保護....そうかぁ...そう見えるかなぁ....うーん」 何も知らないマナトにどこまで説明するべきか 適当に濁して納めてもきっと納得はしないだろう 椎名は慎重に考えながら答えを探した 「でもねぇ、あの子はいつも一人で頑張ってきたから僕達は目一杯、甘えさせてあげたいんだよね」 「なにそれ?あいつはいつも誰かそばにいるじゃん。先生と一緒に住む前だっていたんでしょ?!」 「それは...」 「みぃくんて奴は優しくて、なんでもできて完璧なんだってユウ言ってた! ならユウは幸せじゃん!!1人なんてなったこともないくせに簡単にいうなよ!」 マナトの発言に椎名は言葉を失ってしまった マナトは事情を知らないから仕方がないがユウがミツルのことをそんな風に話していたとは知らなかった それも本来のミツルとは正反対の表し方で 「ユウくんがそんなことを言っていたの?」 「ユウはそのうちそいつの元に戻るんでしょ?!だったら早く返せばいいじゃんっ!!どうしてみんなそんなにユウのこと大事にするんだよ」 マナトは急に立ち上がると椎名に向かって叫ぶように不満を訴えた 「マナトくん、落ち着いて?!」 椎名が宥めるのも聞かず次々と燻っていた胸の内をさらけ出していく それは決していいものではなく、耳を塞ぎたくなるような悪態もあり、そして端々にユウへの怒りや嫉妬を匂わせていた 椎名は今さらながら涼介を部屋に戻して正解だったと思った きっと黙って聞いていることなどできなかっただろう そうじゃない、それは違うんだよと何度も言いたくなる時があったが椎名はひたすら聞くことに徹していた 目的はその言葉のもっともっと奥にある本音を浮き上がらせること もっともっとさらけ出して本音でぶつかってほしいとそれだけだった 「だからっ...だからっ.....」 ようやくすべてを吐き出し終えた頃、マナトは疲れたように肩で息をしていた 「マナトくん」 頃合いを見計らい椎名がマナトに声をかける するとマナトはビクリと身体を跳ねさせて泣きそうな顔を向けた もう終わりだーーと絶望の色が顔に浮かんでいる 椎名は自らも立ち上がり、放心状態のマナトに歩み寄る するとマナトは怯えるように椎名と距離を取ろうと後ずさった 「すっきりした?」 「....え?」 怒るわけでもなくむしろ気遣うような椎名にマナトは怪訝な顔を見せる 「なんで.....」 「もういいの?全部吐きだせた?」 その優しい笑みはマナトの核心に触れて揺さぶりをかける どうして怒らないんだろう 殴られてもおかしくない事を言ったのに...とマナトは目を丸くする 「いいんだよ?もう我慢しなくても」 「....っ...」 その言葉に導かれるようにマナトの目は潤みだしその唇からは震えるように小さな声が溢れた 「なんで.....俺には....誰もいない...の?」 それはマナトの中のたくさんの言葉に埋もれてしまった、ただ1つの本音だった

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