412 / 445

二人を医務室へ残した後、椎名は浮足立って涼介の元を訪れた もう、マナトは心配いらないと顔を綻ばせて告げる椎名に涼介はあからさまに怪訝な顔をする 「あぁ?マナトが来てる?」 「そうなんだよ!それでね?ユウくんに謝りに来たんだって」 そう喜ぶ椎名とは反対に涼介は眉を顰めて言った 「本当に?怪しいもんだぜ、あのマナトだぞ?」 「そんなことないよ、きっと僕たちの気持ちがやっと伝わったんだよ」 「いや、きっとなにか企んでるに違いない」 涼介はそう言うと椎名の持ってきた資料などそっちのけで立ち上がる 「ちょっと、どこ行くんだよ!?」 「バカ野郎!ユウをあいつと二人っきりになんかさせるか!!」 そう言うと足早に部屋を出て行く もちろん向かった先は二人のいる医務室だ 「待てって!!今はそっと見守ってあげようよ!!」 「あほか!!ユウになんかあったらどうするんだよ!!」 怒りの表情を浮かべた涼介は椎名の話を聞こうともしない このままではマナトに何を言い出すかわからない せっかく開いてくれた心を再び閉ざさせる事になったら大変だ けれど椎名が必死に止めるのも虚しく、涼介に引きずられる形で二人はあっという間に医務室までたどり着いてしまった 「いい?!涼介!!ここは冷静になって....」 「お前しつこいぞ」 今にも怒鳴り込みそうな涼介がドアノブを握る そして今まさに開けようと力を入れた瞬間、部屋の中から聞こえてきたのはマナトの怒鳴り声だった 「だからっ!ちげーっつってんだろ!!」 異様なその声に二人は顔を見合わせると、すぐさま部屋に飛び込んだ 「せんせえっ!」 開けた瞬間、椎名の胸にはユウが転がり込んで来る ギュっと抱きついて顔を埋める姿はまるで今にも泣き出しそうだ 椎名が想像していたものとは程遠いその光景に一瞬くらりと気が遠くなりそうだった これでは涼介の言う通りではないか マナトがまたユウに何かをしたのか やっと心を許して、本当の姿を見せてくれたと思ったのに.... それともそんな姿も全部嘘だったというのか.... その光景に戸惑いながらも椎名はユウを抱きしめて恐る恐る尋ねてみる 「どうしたの?二人とも.....」 すると顔を埋めたユウが椎名を勢いよく見上げて 「あのねっ!!マナくんがとりさんっ!!つくってくれたよぉ」 「へ??」 てっきり泣きべそだと思っていた顔がまさかの満面の笑みに椎名は驚き、素っ頓狂な声をあげた 「みてぇ?じょおずでしょお?」 ユウの手には椎名が作れなかった折り鶴が何個も握られている 「ちげぇよ、お前がへたくそなんだろ?!....ほら、もう一個できたぞ」 「わぁぁ!とりさんっ、いっぱい!!」 そのまま呆気にとられる椎名の腕からすり抜けてユウはマナトのそばへ駆けていった 椎名は目の前の2人に瞬きを繰り返しながらもう一度確認するように問いかけた 「え...と...鶴?二人とも....大丈夫...なんだよ...ね?」 すると二人は同時にくるりと椎名を見つめて”なにが?”と不思議そうな顔をする 「.....」 まるで息を合わせたような2人に椎名は取り越し苦労だったと安堵のため息をついた 隣に呆然と立つ涼介も信じられないと目を丸くしている 椎名は腕で涼介を小突くと「ほら、大丈夫だったでしょ」と得意げに笑ってやった すると無言だった涼介は少し悔しそうな顔を滲ませてマナトを呼びつける 「おい、マナト、お前ユウ以外にも何か言うことがあるんじゃねぇか?」 「あっ...」 確かに迷惑かけたのはユウだけじゃない マナトもそれは充分に分かっているつもりだ 「.....」 けれどいつもの如く、高圧的な涼介にはそう簡単に頭を下げることができない ついつい無意識にマナトは涼介を睨みつけてしまう 「あ?なんだよ、その目はっ!?」 すると椎名は宥めるように2人の間に割り入った 「涼介だって偉そうに言えないだろ?せっかくマナトくんがちゃんと話す気になったのに」 その優しい心遣いにホッとしながらマナトは姿勢を直して改めて椎名に向き直った 「先生」 そしてぺこっと軽く頭をさげると言いにくそうに口を尖らせる 「あの...ごめん...」 まるで別人のようなマナトに答えるように椎名は頷く 「もういいよ、本当に良かった」 その優しい微笑みにマナトは何かを思い出したようにハッとする 「そうだ!!あのサンドイッチ、先生でしょ?超うまかった...」 「え?」 マナトは椎名に会ったらこれだけは絶対に言おうと思っていたのだ あれはすごく美味しくて心に響いた それなのに当の本人はキョトンとしている 不思議に思っていると急に後ろから頭を叩かれてマナトの身体は前につんのめった 「いってぇ!!なにすんだよ!!」 驚いて振り返った先に見たのは仁王立ちの涼介 腕を組み、マナトを憎々しげに見つめている そして大きな口を開けたかと思うと部屋中に響き渡る声で怒鳴った 「あれを作ったのは俺だ、バーーーーーーカッ!!」 「えっ?!」 「お前なぁ、マサキが作ったら食えたもんじゃねぇんだからな?!こいつの事買い被りすぎなんだよ」 「嘘だろっ?!えっ...マジで?!」 サンドイッチを作ったのがまさかの涼介という真実にマナトは返す言葉が見つからない 不覚にもうまいと思ってしまったのがコイツだったなんで.... 優しいなぁ、なんて思ったのがまさかのコイツだったなんて... 嬉しいあまりに涙してしまったことが今になって後悔に変わる 「俺に何かいうことは?」 「....」 「おい、こら!聞いてんのか?!」 涼介はマナトの顎をぐっ掴んで引き寄せる 「聞、い、て、ん、の、か、よ」 マナトはその手を振り払うとさっと椎名の後ろに隠れた そして露骨に嫌そうな顔で舌を出して睨みつける 「お前には絶対謝んないっ!!」 「はぁ?!なんだとっ!!てめぇっ!!」 捕まえようする涼介の腕をひらりとかわしてマナトは逃げ回る 「マナくんっ!!すごーいっ!!」 「まぁまぁ、2人とも落ち着いて」 2人を見つめるユウはきゃっきゃっと笑い、たしなめる椎名もまだ穏やかに笑っていた その日、ようやく医務室が明るい笑い声に包まれたのだった

ともだちにシェアしよう!