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嫌がるユウを無理やり寝かしつけたミツルが寝室から戻ってくる
「ユウくんは?」
様子を伺う椎名にミツルは困ったように「大丈夫」と笑った
「先生、コーヒーでいい?」
ミツルはそういうとそのままキッチンに入り、支度を始めた
手早いミツルのおかげでいい香りはすぐに部屋中に流れてくる
椎名はリビングのダイニングチェアに腰かけると彼がそれを運んでくるのを待っていた
「はい、どうぞ」
「わぁ、ありがとう」
運ばれたマグカップを椎名は喜んで受け取った
ユウが寝ている今、久しぶりの2人きりの時間だ
今後の事を話し合うにもちょうどいい
するとそれを見越してかミツルも椎名の向かいに座った
「ユウは最近どう?何か変わった事ない?」
普段そばにいられない分、ミツルには知りたいことがたくさんある
会うたびに少しずつ話せる言葉が増え、できることが増えていくユウにミツルは毎回戸惑いながら複雑な思いを抱えていた
離れている間ユウがどこで誰と何をしてどんな風に過ごしているのか....
成長することは喜ばしいことなのにこれ以上変わらないでほしいと願う自分がいる
「ああ、そうだった!実はね、ユウくんに友達ができたんだよ」
そう嬉しそうに話す椎名にミツルは自分の耳を疑った
「友達?...何それ」
「マナトくんっていって、ユウくんとは確か同い年だったかな」
ミツルはその名前にピクリと反応して眉間に皺を寄せる
聞き覚えのあるそれは最近現れた新たなユウの世界の登場人物
今まで何事もなかったその世界に突如変化をもたらした異質なものだ
「ユウくんとは良いお友達になれそうな気がするんだよね」
楽観的に話をする椎名にミツルはイマイチ同調できなかった
ユウのノートに突如描かれ始めた見知らぬ男
絵本の王子様だと語ったユウの憧れのまなざし
首筋のキスマーク
それは穏やかに緩やかに波1つ立たないユウの心に小さな揺れをもたらした
今までこんなにも誰かに胸をざわつかせることなどなかった
気づくとミツルはテーブルに身体を乗りだして執拗に問いただしていた
「信用できるの?そいつ....この間のキスマークだってつけたのはそいつでしょ?!」
「それはちょっとした誤解だよ!それにもうちゃんと反省してるし.....」
「嘘かもしれないじゃん、信用できるの?」
ユウは人を疑う事をしない....というよりできない
すべての人が優しくていい人だと思っているようなユウに人を疑ったり、まして危険を回避するために慎重になれというのは無理なことだ
今なら幼い子供だってユウのことを騙すことができるだろう
そんなユウのそばに得体の知れない人間を置いておくなんてどうかしてる
苛立ちを露わに攻撃的になるミツルに椎名は宥めるようにその必要性を懸命に説いた
ユウに友達を作るというは本人だけではなくミツルのためでもあるのだ
共依存的な関係である二人はもっと視野を広げないとまた同じことを繰り返す危険がある
ユウはミツル以外の意見にも耳を傾けること、ミツルはそんなユウを受け入れることが必要になってくる
けれどミツルはまだ十分にそのことを理解できないのか...したくないのか
ユウに他人を近づけるな!とまるで駄々をこねるようだった
「ミツルくん、ユウくんだってこれからいろいろ学ぶ為にはたくさんの人と接しなきゃいけないんだよ」
「.....」
「ユウくんのためにも、君も大人にならないと」
”大人になれ”
そう言われてしまっては何も言い返せずミツルは悔しそうに唇をかんだ
手元のマグカップを握りしめて、いつの間にかぬるくなってしまった中身を睨みつける
「...先生、ユウの事ちゃんと見ててね?お願いだから」
ミツルは精一杯、それだけ伝えるとその苦心をコーヒーと共に飲み込んだ
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