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”大人になれ” 椎名の言葉は彼が帰った後もミツルの頭の中こびりついて消えてくれなかった いいかげん一人で寝ているユウの様子を見に行ってやらないといけないのに足が重い 「はぁ....」 それでも今日はユウと過ごすと決めたのだから仕方ないとミツルは暗い顔で寝室へ向かう 音を立てないように中へ入るとベットには大人しく眠るユウがいた 「...ったく、なんで熱なんが出すかな」 覗きこんでみるとさっきよりも頬が赤くなっていて、明らかに熱が上がっているように見える 「やっぱりな...上がると思ったんだよ」 それでもどこか誇らしく感じるのはいつもそばにいるはずの椎名ですら気が付けない変化を自分だけは気づくことができたから どれだけ離れていてもユウを1番に想うのは自分なんだと実感できる 汗ばんだ額にそっと触れたとき閉じていたはずの瞼がゆっくりと開いた 「みぃく...ん?」 「あっ...ごめん、起こした?」 ユウは寝ぼけた目でミツルを捉えるとシーツから両手を伸ばしてその腕を捕まえる 「どうしたの?抱っこ?」 「んぅ....」 甘える仕草が可愛くて抱き寄せるとユウはミツルの存在を確かめるように顔を埋めてくる 「つーか、汗だく、着替えよっか」 火照って汗ばんだ身体 このままでは余計に熱が上がってしまう ミツルはベットの脇に置かれたユウのリュックから着替えをとりだそうと中を開けた ぬいぐるみに絵本にお絵かき帳 たった一泊するのにどれだけ必要なのかと思うほどその中はユウのお気に入りで溢れている リュックの底に詰め込まれた服をとりだそうと引き抜くとそれに紛れてバラバラと何かが床に散らばった 「なにこれ」 何気なく指先でつまみあげるものに気がついたユウがベットの上から乗り出した 「それね、とりさん..」 「とり?鶴だろ?折り鶴」 「マナくんがくれたの...とりさん」 "初めての友達"は椎名のいうとおりユウに大きな影響を与えているようだ 熱に浮かされながらもそれにまつわる話をしたくてうずうずしているのがミツルには手に取るように分かる 「いっぱいくれたから...みぃくんにもあげるの」 無邪気なユウの笑顔 それがミツルにとってどれだけ残酷かユウは知る由もない ”大人になれ” 今までだって充分、やってきたつもりだった ユウの望むことをしよう、ユウのためにできることをしよう 誰にも内緒で大切に閉じ込めて守ってきたユウを手放したのも、外の世界を知ることも、なんでも自由に望むこともすべて許してきたのは他でもないユウのためだ それなのにまだこれ以上大人にならないといけないのか...... ミツルの胸に渦巻く黒い靄はじわじわと滲んでいつの間にか全身に広がっていく 「そんなものいらねぇよ」 気が付くとミツルの手はユウを突き飛ばしベットに倒れこんだ身体を押さえつけていた 「みぃっ....」 ミツルは驚き言葉にならない声を上げるユウの唇を無理やり塞ぐ 荒々しく口の中に舌をねじ込み、かき回すようにユウの舌を執拗に追いかける 「んぅ....」 次第に小さかった水音が激しくなるとユウはその身を任せるようにベットに深く沈みこんでいた 薄めを開けたミツルに見えたのは蕩けて潤んだユウの大きな瞳 この目に映るのは自分だけのはずだ 他の誰かを追いかけるために自由にしてやったわけではない 「ふぁっ.....」 塞がれた唇の間から酸素を求めるように甘い声が零れると離れた唇を透明な糸が繋いでいた 「着替えようか」 目を細めながらユウを見下ろすミツルは汗で張り付いている服を半ば強引に剥ぎ取る 突然の外気に晒されたユウの肌は青白く震えていた

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